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「……ヘンゼルくん、僕に名前を呼ばれるのが不快なんだって? じゃあ、言ってみてよ、僕のことが嫌いだって、僕の目をみて」 「……っ、」 「……言えない? ……じゃあ、僕から言ってやろう――目を、逸らすなよ」  後頭部を鷲掴みされ、吐息がかかるほどに詰め寄られる。息をすることすらも忘れてしまいそうになった。まばたきも、できない。 「――ヘンゼルくん、僕は……君が欲しい」  ガツン、一瞬何かに殴られたのかと思ったが錯覚のようだ。何も言葉が浮かばない、糾弾してやろうと思っていたのにその言葉すらもでてこない。胸のなかで湧き上がる想いは、彼への嫌悪感とは程遠く。  そのまま唇を奪われて、抵抗できなかった。自然と目を閉じてしまって、彼の口付けを受け入れる体勢に入ってしまったのはなぜか。ねじ込まれた舌に咥内を犯されることを心地好いと思ってしまったのはなぜか。頭のなかがまるで麻痺したように思考は停止する。舌を引き抜かれる瞬間に思わずそれを追いそうになってしまって、ハと目が醒める。 「……ヘンゼルくん、答えは?」 「……ならねえよ……俺は……おまえのものなんかにならない。こうしておまえに組み伏せられているのは、ここを抜け出すためだ……おまえに心を許したわけじゃない……」 「……そう。……じゃあ続きしようか……今日は最後までだよ、君は僕とひとつになる」 「……っ」  ひとつになる、そう言われてくらりと目眩がする。彼の熱をなかに挿れられて、身体を揺さぶられて、抱きしめられることを瞬時に想像してしまったから。ああ、本当に抱かれてしまうんだ、ヴィクトールに……ヴィクトールに、この身体を女にされてしまう。  あるはずのない子宮から蜜が溢れだすような。女のように抱かれることに屈辱を感じていたのに、背徳感を覚えていたのに、今、そうされてしまうことを期待してしまうこの身体は。 「あっ……、ちょ、っと……! やめ、」  後孔にぬめりを感じる。ヴィクトールが今から自身を挿れる穴をなめているのだ。ヘンゼルが羞恥を覚え抵抗したのは一瞬だけ。太ももを伝う唾液を愛液と錯覚してしまうほどに、すっかり思考を支配されてしまっていた。男であるプライドも、抱かれることへの嫌悪も、すべて壊れてしまっていた。なにが自分をそうさせたのかはわからない。しかし、「欲しい」と言われたそのとき、自分がヴィクトールのものになってしまうという未来に、違和感を覚えなかった。 「ん、……ん、」  きゅんきゅんと穴が動いているのが自分でもわかる。いやらしい気持ちになってきて、ヘンゼルは目を閉じて自ら腰をヴィクトールに押し付けるように揺らした。  焦らさないで、もっと奥を、奥のほうを触って…… 「あぁっ……」  まるで心を読まれたように、絶妙なタイミングでヴィクトールの舌が中に入り込んでくる。身体は歓喜に震え、唇からは惜しみなく甘い声が漏れ。そうすると、もう、止まらない。 「……ぁ、ッ、あ……」  ヘンゼルの揺れる腰にヴィクトールの心が高揚する。もっと淫らに、もっといやらしく。身体を開いてゆくことの快楽。もっともっと変身させてやる、堕としてやる。わざと激しく音をたててなかを抉るように舌を動かし、徐々にヘンゼルの理性が壊れてゆく様子を感じては、たまらない幸福感を覚えた。 「……ヘンゼルくん……自分で、胸、触って」 「……ッ!?」 「僕はここを責めてあげるから……ヘンゼルくんは自分で胸を虐めるんだよ」 「な、にを……」  あまりにもはしたない要求に、ヘンゼルは固まった。しかし迷っている間にもヴィクトールはすぐにまた後孔を責めだし、やらざるを得ないのだとヘンゼルは唇を噛む。 「……胸で感じるようになってよ」 「……そんな、……ッ、あ、」 「女の子みたいに……そこを弄られていやらしい声をあげるようになって。そうしたら僕がそこをいっぱい触ってあげる。いっぱいしゃぶってあげる。男の子なのにそこでイケる淫らな身体になって、僕に毎日毎日抱かれて僕とのセックスのことしか考えられなくなって」 「……っ、」  快楽に犯された身体に、ヴィクトールの言葉。これ以上の快楽を、ずっとずっとヴィクトールに与えられて、彼の腕のなかでイき続ける日々。考えただけでおかしくなりそうだ。  ぎゅっと目を閉じて、その妄想を振り切るように大きく息を吐く。くちゅくちゅと自分の穴から聞こえてくる音に耳が犯される。余計な雑念はもう生まれない、ただヴィクトールによって与えられる悦のみが脳内を支配する。恥ずかしい、その思いは被虐心へ掛け算となって、恐る恐る指で胸でツンと強調されるところに触れれば、溜息のような熱い吐息が溢れてしまう。 「……は、ァっ……」  なんて滑稽なことをしているのだろう。沸々と湧き上がる羞恥心は、なぜか指を止めようとしてくれない。指先でくりくりと乳首を刺激すれば、じわりと頭のなかがなにかで満たされる。刺激自体は大きなものではないのに、胸を触っているという状況に興奮してしまう。 「……ヘンゼルくん……今の君、すごくいやらしくて、可愛い……」 「あ、ぁっ……しゃべん、な……」 「ほら……もっと、自分の身体を虐めてごらん。そんな遠慮がちに触ってないで……もっと強く摘んで、引っ張って」  じわりと瞳に涙が溜まる。自分で乳首を触るなんて、惨めな気持ちになる。それでも、ヴィクトールに穴を責められていると、そんな自慰への嫌悪感が薄れていく。ヘンゼルは言われたとおりに、ぎゅっと乳首を引っ張りあげ、ぐりぐりと指先をこすり合わせるように強めに刺激した。自分は何をやっているんだろうと思いながらも、指が止まらない。ヴィクトールに与えられる刺激に身悶えながら腰を揺らし、こうして自分で乳首を慰めて……ひどくいやらしいことをしているという意識が甘美な痺れと変わってゆく。 「すごい……ヘンゼルくんのここ、女の子みたいになっている。すっごく欲しそうに疼いているし、僕が舐めたからとろとろ」 「言うな……」 「……はやく挿れたい、はやく、ヘンゼルくんのなかにはいりたい」 「……ッ、」  ヴィクトールの声に混じる熱。僅か冷静を欠いたように、欲望のままに後孔を責め出す舌。もう限界に近いヘンゼルの理性を煽ったのは、彼が自分を求める欲望。 「……じゃあ、さっさと挿れればいいだろ……!」 「……だめだよ、そうしたらヘンゼルくんが辛い」 「知らねぇよ! 俺に気なんてつかうな!」 「……だめ、ヘンゼルくんも気持ちよくならないと」  そう言ってヴィクトールはしつこく舌でそこを解す。もう、それはいいから……そんな入り口のほうばっかり責めないで、奥が熱いから……ふつふつとこみ上げてくる想いは、言えない、言えるわけがない。快楽でぐずぐすになった瞳をシーツでぬぐいながら、耐えるしかない、待つしかない。 「ヴィクトール……!」 「……!」 「……ヴィク、トール……」  ただ名前を呼んで、彼が気付いてくれるまで。

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