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*** 「ごめんね、ヘンゼルくん。君に恨みはないんだけど」  どことなく異臭のする部屋の中心まで引きずられると、ヘンゼルは床に押さえつけられた。どこか感情が壊れたような、そんな表情をしている彼らに本能的な恐怖を覚えたヘンゼルは、叫び声すらあげられなかった。にたにたと笑う少年たちは非常に不気味である。 「俺たちはこれから復讐をはじめようと思う」 「復讐……?」 「俺たちを虐げ辱めたトロイメライへ! 予定としてはまあ、ぐちゃぐちゃに虐殺してやろうとは思っているんだけど……あの憎たらしいヴィクトール……あいつは肉体的な苦痛だけじゃ俺たちの気がすまない。そこで!」  朗々と語る少年が、つうっとヘンゼルのもとまで歩み寄り、しゃがみ込む。そして、顎を掴み、息のかかるほどに顔の距離をつめると、まるで憐れむようかのような声で言った。 「ここにいる全員で君を陵辱しようと思いま~す!」 「……!?」  一瞬何を言われたのかわからなかった。りょうじょく……陵辱ってなんだっけ。恐怖とショックで思考が上手く働かない。 「あの男……こんな悪事をはたらけるんだから、随分と太い神経してそうでしょう? ちょっとやそっとじゃダメージ受けなそうだけどさ。大切な君を傷つければね、流石にショックをうけると思うんだ」 「……な」 「ねえ、ヘンゼルくん……確認のために聞くけどさァ……君、ヴィクトールに愛されているよね?」 「え……」  少年の瞳は深い闇を孕んでいた。復讐の念に駆られ、完全に道徳が壊れている。ヘンゼルの答えを待つ様子は酷く愉しそうだ。 「……ッ」  ヘンゼルは黙りこんでしまう。ここで「愛されていない」と答えれば、被害をうけない可能性があるのだ。しかし、その言葉は口から出てこない。ヴィクトールから受けたたくさんの愛を、一緒に過ごした時間を、すべて無に返すようなそんな呪いの言葉を……言えるわけがなかった。初めて人を愛したと言った、彼の泣きそうな笑顔が頭から焼き付いて離れなかったのだ。 「……されてる」 「……え? なんだって?」 「俺は……俺は、ヴィクトールに愛されているよ」 「……決まり」  嬉しそうに笑った少年の声は耳に入ってこない。ぽろぽろとあふれる涙がなぜ、流れているのかわからない。ただ、ヴィクトールへの想いで胸がいっぱいだった。いつの間にこんなに彼を好きになっていたのかと、自分でもびっくりしてしまった。 「抵抗はしないでね。一回抵抗する度にアイツに付ける傷増やすから」  ……そんなこと言われなくたって。ヘンゼルは疲れたように笑う。ヴィクトールから愛されているのだと、宣言した瞬間に、ヘンゼルの中で陵辱されることへの諦めがついてしまった。だらりと体から力が抜けて、抵抗する気が沸いてこない。そもそもこの人数を相手にした場合、無理に抵抗すれば余計に痛い目にあうだけ。逃げることなど絶対に不可能なのだ。  服を無理に引っ張られ、破かれる。ブチブチと繊維が千切れてゆく音は耳障りだった。無抵抗になりただ涙を声をあげることもなく流すヘンゼルを、少年はにやにやと見つめている。あっという間に服は剥がれ、肌は汚らしいこの部屋の空気にさらされる。 「はい、動かないで。危ないから」  一人の少年が注射器を取り出した。数人がかりで腕を捕まれ、二の腕に針を近づけられる。 「それは……一体、」 「僕たちがショーに出る前に打たれる媚薬。一個盗んできちゃった」  そういえば。ドクターがショーにでるドールに特製の媚薬を仕込むと言っていたような。あのときのステージに出演していたドールのように、自分もなってしまうのか……ヘンゼルは恐怖を覚えたが、やはり逃れようという気は起きない。ぼんやりとしているうちに針が刺され、液体が体内に注入されてしまう。 「結構その薬まわるの早いからさ」  媚薬の注射が終わると、一斉に少年たちがヘンゼルの身体を弄りだした。手、手、手。合わせて十は超える手がヘンゼルの体のあちこちを触る。あまりの不快感に、ヘンゼルは顔をしかめる。性感帯だったはずの場所も、初めて見るような奴に触られたところで感じやしない。ましてやこんな状況で。ヴィクトールに触れられれば心と身体は歓びに燃え上がるというのに、今はただただ気持ち悪いだけだった。……しかし。 「……ッ」  即効性の薬なんて、そんなもの存在するものか。そう思っていたのに、この薬はまさにソレだった。身体の内側が、ゾワゾワと熱くなってくる。これを作ったのは自分だとふてぶてしく言っているドクターの顔が浮かんで、ヘンゼルは舌打ちをしたくなった。……もしも次に会うことがあったら殴り飛ばしてやろう。 「ひっ……」  ぎゅっと乳首を引っ張られたとき、唇から吐息に混じって声が漏れてしまう。それを聞いた少年たちたちが気を良くしたのか、さらに激しく身体を刺激してくる。  しかし、ヘンゼルは再び声を出してたまるかと唇を噛み締めた。羞恥心からでもプライドからでもないーーただヴィクトールのことを想うから。恥ずかしい声をだすと、ヴィクトールは喜んだ。喜んでくれると知ったから、できるだけ耐えないで、恥ずかしいのを堪えて、最近は声をだすようにしていた。声は、ヴィクトールの前でしか出したくない、ヴィクトールのために出すもの。こんな奴らに聞かせたくない…… 「ちょっとヘンゼルくん? そんなに声我慢しないでよ……だした方が楽だよ?」  強く噛みすぎて唇から血を流したヘンゼルを嘲笑うように少年は言う。しかし、ヘンゼルは少年と目も合わせることなく、俯いて快楽に耐える。

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