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「ん……」
目を覚ますと、ウィルは知らない小さな部屋のベッドの上で横になっていた。手だけが前に手錠で拘束されている。手錠は軍支給のものだ、気を失っている間に武器と一緒に奪われたのだろう。部屋のなかを見渡すと、端の方に机があるだけでほかにはなにもない。机の上には航海地図などが散らばっている。
(ここは……)
「よう、ウィル。目がさめたか」
「……!」
扉をあけて入ってきたのは、オーランドだった。そこで、ようやくウィルは自分の置かれている立場を理解する。ここは、オーランドの海賊船のなか。そして自分は、捕らえられている。
「……他の海兵は」
「さあ……どうなったと思う?」
「……まさか、おまえ……!」
衝動的に、ウィルは体を起こしてベッドから飛び降りた。脚は拘束されていなかった、何ができるというわけではないが思わず体が動いてしまったのである。しかしその瞬間――強烈な痛みが脚に走り、ウィルは悲鳴と共に崩れ落ちた。この痛みは――
「おいウィル……よくそこの窓から外をみてみろ……もう日が沈んでいるぞ。おまえは歩けない」
「……え、」
窓をみやれば、確かに外はもう夜だった。しかし、ウィルが驚いたのはその点ではない。オーランドが、ウィルが日没と共に歩けなくなるというのを知っていたことだ。彼にそのことを言ったことはなかったはずなのに。
「……おまえ、それを誰から聞いた。俺の仲間か」
「それ? ああ……おまえが『日没になると、歩く度に脚にナイフに抉られるような痛みを感じる』っていうことか? さあ……誰、……誰だったかな」
「……詳しく知っている人間は限られている……誰だ、答えろ!」
「……少なくともおまえの仲間じゃないな」
「は……?」
仲間じゃない――じゃあ、誰だ。わけがわからなくなってウィルが狼狽えていると、オーランドが近づいてくる。逃げる術も、抵抗する術もない。ウィルが本能的な恐怖を感じて瞠目すると、オーランドがウィルの体を抱きかかえてしまった。
「――あ、あ……!」
「おっと、脚に触っちゃたな、少し我慢しろ」
「な、何を……どこに連れて行くつもりだ!」
「ん? いいところ」
痛い。脚に自分の体重がかかって、とてつもなく痛い。がっちりと肩を掴まれていて逃げることはかなわない。ウィルは無意識にオーランドの胸元にしがみついてしまっていた。あまりの痛みに、敵である彼にそうしたことをする抵抗感が消えてしまっていた。
「は、離し……いたい、……痛い……」
「……そうしていると……昔みたいに可愛いな、ウィル」
「……な、に……ん、」
突然、視界が暗くなる。唇に、仄かな熱を感じた。キスをされていると……少し遅れて気づいたが、朦朧とした意識の中抵抗する気力がない。ただ痛みに耐えることに頭のなかが支配されて、何も考えることができない。唇を離されてからも、ウィルはぐったりとしたままで、驚きをみせることもなかった。再び、彼の胸に顔を寄せて目を閉じる。痛い、離せ……それしか考えることができなかった。
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