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連れて行かれた先は、部屋を出てすぐにある、船の甲板。すでにオーランドの仲間たちが円を描くようにして集まっていて、彼らの間に押し込められるようにしてウィルは転がされた。オーランドはそのまま用意されていたスペースまで行って、そこに腰を下ろす。
「よう、中佐殿。近くでみるとまたべっぴんさんだなァ」
「まあまあ睨むなって!」
小馬鹿にしたように話しかけてくる海賊たちにウィルは心底苛立ったが、何もできない
手は拘束され、脚は痛み。とくに抱えられたせいで激しい鈍痛が蝕む脚は、ウィルの行動を著しく制限していた。言い返そうにも、思考が働かないほどに脚が痛かった。
「……これから、何を……」
こんなところに自分を連れだして、何をするというのだろう。考えてみたが、ウィルにはわからなかった。ウィルのぼやきが聞こえたのか、隣に座っていた男が楽しそうに言う。
「毎晩俺らがやっていることさ! なあ、海で生きる男がすることなんて――これしかないだろう!」
そのとき、海賊たちの騒ぎの中で一際きらきらと輝く音が聞こえてきた。不思議に思ってウィルが顔をあげると――そこには、ギターを持ったオーランド。
「野郎ども――今日も一日おつかれ! 騒ぐぞ!」
どんどんと足を鳴らしながらはしゃぎ始めた海賊を、ウィルは驚いたように見つめていた。そして、久々にみる、ギターを弾く彼。あまりにも懐かしい音に、ウィルはぽかんと口を開けていた。なにも、変わっていない。ギターの腕はあがっているが、音はあの頃となにも変わっていない……。今まで心の中を支配していた憎しみが、晴れてゆくような気がした。感激のあまり、泣きそうになってしまった。ギターの音色に……思わず、あわせて口ずさみたくなってしまう。
しかし――そんなウィルの感動を壊したのは、不可解な人物の登場だった。どこからか出てきた男におされてやってきた車椅子。そこに座っているのは、周りの男たちと比べると若い少年。そしてその少年は――オーランドのギターにあわせて歌い出したのである。……少年が歌い出すと、皆、嬉しそうに拍手をはじめた。
「……あの、少年は、」
「おお、あれか? あいつは俺たちの歌姫さ! いつも船長のギターにあわせて歌っていてよ、」
落ち着いていた脚の痛みが――再び強まった気がした。ウィルはその少年を凝視しながら、呆然としていた。
少年の唄を聞いて、海賊たちは楽しそうにはしゃいでいる。まるで、オーランドと少年の二人の演奏こそが至高だと言うように。
――オーランドの隣に立って歌うのは……俺だったのに。
オーランドは殺すと決めた――そんな意識は結局、本当の気持ちの蓋として生んだものであって、ウィルがオーランドへの想いを完全に捨てされたというわけではなかった。脚の痛みによって精神までも脆弱化している今、ウィルの脳は自分の立場よりも気持ちのほうを優先してしまっていた。オーランドと再び一緒に歌いたいと思っていたのに……彼は、違う人と共に歌っている。ただオーランドが海賊行為を働いていたということよりも、この事実はウィルの胸に深々と突き刺さる。
「……なんで」
まわりの音が聞こえてこない。気持ち悪くなって、視界がぐらぐらとしてくる。
……ほんとうに、自分だけの一方通行の想いだったのか。
宴がおわるまで、ウィルはずっと塞ぎ込み、脚の痛みに耐えていた。
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