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memories come back1
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「あれ、どうしたの歌姫ちゃん。随分と不機嫌じゃん」
「……歌姫って呼ぶのやめてもらえます。気持ち悪い」
潮風に吹かれてぼんやりとしている椛に、船員が話しかけてくる。ほら、と言いながら酒の入った瓶を差し出すと、椛は無言でそれを受け取って一気に口の中へ流し込んだ。あまり酒は好きじゃないが、むちゃくしゃしてたまらなかった。
「……ああなるから、マーメイド同士以外の恋はやめろって言われていたのに」
「え? なんだって?」
「……べつに、いいんですけど。ただ僕は……純粋にウィルが好きだったから彼が幸せになってくれれば嬉しい。……でも、あれは違う」
「おーい、俺いるの気づいている?」
漣の声が耳にはいってくる。ぼんやりとそれを聞いていると――昔の記憶が蘇ってきた。
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