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「……おはよう」
窓から朝日が飛び込んでくる。ウィルが目を覚ますと、オーランドが頭を撫でてくれた。オーランドの体と、シーツの暖かさに包まれて、とてつもなく幸せな気分になる。ウィルはオーランドの胸元に顔を擦り付けるようにしながら抱きついた。
「……俺、神様に感謝したらいいのか、憎んだらいいのか……わからない」
「……ん?」
「……こんな呪いのせいで、俺は苦しいけれど……でも、オーランドに出逢えて、すごく幸せだから」
「……なんでそんなに、呪いのことで悩んでいるんだよ。俺の知らないことか?」
「いや……これは、いいんだ。オーランドは知らなくていい……」
……ほんとうに、どうして俺たちは、普通の人間として出逢えなかったんだろう。そうすれば、こんなに心が割かれるほどに苦しむこともなかったのに。
ウィルは顔をあげ、オーランドに触れるだけのキスをする。なんとも言えないような顔で見つめられたが、『呪いを解けばウィルに関する記憶が消える』ことは言えない。言えば必ず、引きとめられる。自分で死ぬ決意ができるのかは自信がないが、オーランドに止められてしまったら絶対に死ねない。だから、これは黙っていよう、そう思った。
「ああ、そうだオーランド……なにか、二人で曲をつくろうか」
「曲?」
「楽器ってさ、頭では忘れちゃっても体が覚えていて演奏できるんだろ。だから、オーランドがその指で俺を忘れないように」
「ウィル……どうしたんだ、昨日から……俺は、おまえを忘れたりしない。ずっと、愛してる」
「……オーランド、」
ウィルはオーランドの手をとって、自らの口元にもってきた。そして、指の一本一本に口づけをする。戸惑いをみせるオーランドにむかって悪戯に笑ってみせると、人差し指を口に含んで舐めてやる。
「まて、ウィル……あんまり煽るな」
「どうして?」
「だって、おまえ……悲しそうだから。そんなおまえを、抱けない」
「……」
ウィルは一瞬きょとんとすると、くすくすと笑い出した。名残惜しげに指を口からだすと、その手のひらに頬ずりをする。
「……俺、愛されてるね」
嬉しかった。本気で自分を想ってくれているのだと感じて。
「でも……ごめん、抱いて。オーランド。今、すごくオーランドに抱かれたい」
「ウィル……」
「……そんな顔するなよ、違う。今……すごく、オーランドのことで胸がいっぱいになって……抱かれたくなっただけだから」
ふ、とウィルは微笑んだ。彼を好きになればなるほど、苦しみは増してゆく。でも、この気持ちを抑えることはできない。愛している――この人を。
「ウィル……」
「うん……」
「愛している」
「……俺も」
かさ、とシーツが擦れる音と共に全身がオーランドの熱に包まれた。
溢れるほどの幸せと、身を焼くほどの哀しみに、心が壊れてしまいそうになった。
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