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*** 「……なにかあったのか」 ベッドの上に座って、オーランドはウィルの肩を抱き寄せる。優しく頭にキスをしてやると、ウィルは嬉しそうに目を閉じた。ウィルはそのまま甘えるようにオーランドの首元に頬をすり寄せる。 「……ううん。なんでもない」  なんでもない、そう言いながらウィルの手は震えていた。オーランドは衝動的にウィルを抱きしめて、その腕に力を込める。なんでそんな、苦しそうな顔をするんだよ。今にも壊れてしまいそうな彼の表情に、ズキリと胸が痛む。 「オーランド……ごめん」 「……なにが、」 「……ごめん……俺、自分のことしか考えられなくて」 「……どういうことだ」  泣いている。自分の胸に顔をうずめながらウィルが泣いている。 「……オーランド……ごめん、……ずっと、ずっとずっと……俺を、愛して……忘れないで、俺の側にいて……」  ――どうしようもなく、おまえのことが好きなんだ。  悲痛な告白が、オーランドの心を掻き毟った。なぜ、その言葉を泣きながら言うのかわからない。いつも、幸せそうな顔をして言っていたのに。それなのに、何故。 「……当たり前だろ、俺は永遠に、おまえを愛してる」 「……うん……うん。……ごめん、オーランド」  ウィルが、顔をあげて口付けてきた。一瞬見えた、濡れた瞳があまりにも悲しくて、オーランドまで泣きそうになってしまった。なんで。なんで、そんなに悲しい顔を。 「ん……んん……」  はらはらと涙を流しながら、ウィルはオーランドとのキスに蕩けていた。時折ぴくぴくと跳ねる身体は、もうキスだけでイけるくらいにオーランドのことが大好きで。ぎゅっとオーランドの服を握りしめながら、ウィルはあっさりと達してしまった。唇を離すとぐったりとしてしまって、オーランドが後頭部に添えてやった手のひらに寄りかかってなんとか身体を起こしている状態となる。とろんとした目をしながらはーはーと息をするウィルがひどく愛おしくて、オーランドは顔にキスの雨を降らせてやった。 「泣くな、ウィル……俺はずっとおまえのことを愛しているよ、大丈夫……」 「……うん……」  何がそんなに怖いんだろう。言葉にしてくれないから、オーランドにはわからない。  たくさんキスをしてやって、表情がとろとろになってきた頃に押し倒そうとすると、ウィルが静かに制止をかける。 「あれ、がいい……いつもの、」  何かが不安で不安で仕方ないウィルは、一番好きな体位を望んだ。オーランドはウィルを自分の膝の上に乗せて、シャツを肩まではだけさせてやり、胸元にたくさんの痕を残してやる。ひとつ痕が増えるたびにウィルは甘い声をあげながら身体を震わせた。消えないようにいつもよりも強く肌を吸ってやると、いつもよりも嬉しそうに、気持ちよさそうに、かわいい声をだした。 「あっ……う、」  ふと、ウィルがオーランドの肩を強く握りしめ、苦痛の声をあげる。オーランドがハッとして窓をみれば、外はすっかり暗くなっていた。日没がきてしまった。こうなってからは、優しく気持ちよくしてあげて、脚の痛みをやわらげる……それがいつもの方法だ。オーランドがそっとウィルの肌に触れ、キスをしようとしたそのとき。ウィルが、俯いて、肩を震わせながら泣き声をあげる。 「……なんで、」 「……ウィル?」 「なんで、俺は……普通の人間じゃないんだよ……」  オーランドはその言葉に唖然としてしまう。もしかして、人魚の呪いの件でこんなに苦しんでいるのか? どうして? 「……オーランドと、……普通の人と同じような、幸せな生活をおくりたかった……年老いて死ぬそのときまで……一緒に歌って、一緒に笑って……そんな、なんでもない普通の幸せな生活を……!」  あまりにも絶望的で、哀しい、小さな叫びがオーランドの胸を締め付ける。オーランドは妙な胸騒ぎを感じながらも、ウィルを掻き抱いた。オーランドは自分が呪いによって狂っていることは知らない、しかしウィルの美しい声に惹かれているのだということは自覚している。それがいけないのか、だからウィルが不安に思っているのか。ウィルがなぜこんなにも苦しんでいるのか、情報が不足しているオーランドは答えにたどり着けなかった。しかし、必死に考えて、ウィルの悲しみを和らげてあげたいと、悩み悩む。 「ウィル……? 俺は、おまえの声が好きだ……でも、お前自身のことが、好きだから……」 「……」 「おまえに出逢ったときから……! ずっと、ずっと……好きだった、たとえおまえが呪われた人間じゃなくなって……! 俺は、絶対におまえを好きになっていた」  声は、届いているのか。どうすれば、ウィルの涙を止めることができるだろうか。  ゆっくりと顔をあげたウィルの表情には、暗い暗い影が落ちていた。 「……ありがとう」 「ウィル……」 「オーランドが、俺のこと、好きで……嬉しい。胸が痛いくらい、嬉しい……すごく、幸せ」  ウィルがオーランドに唇を重ねてくる。ちゅ、ちゅ、と触れるだけのキスを何度もしたり、舌を絡める深いキスをしたり。自分からしてきているのに、甘い声をあげているウィルが愛おしい、狂おしい。 「だから……ごめん……捨てられないんだ、……オーランドにもっと愛されたいって気持ちを……諦められない」 「ウィル、だから俺は……!」 「……忘れないで」  え、と声が出そうになる。つう、とウィルの両目から、涙が溢れだす。 「……俺のこと、忘れられるのは、怖い……!」  ウィルは泣きながら、自らの後孔をオーランドのものにあてがった。そして、腰を落とし熱を中に沈めてゆく。仰け反り、白い喉を晒しながら、最後まで挿れるとやはりそれだけで達してしまった。 「あ、あぁあ……ッ、オーランド……ごめん、好き……好き……あ、あ、」  腰を揺らし、よがりながらウィルは懺悔を繰り返した。その倒錯的な光景に、オーランドのものは情けなくも堅くなってしまう。  ウィルが何を考えているのか、わからない。想いはたしかに通じあっているはずなのに、なぜウィルはこんなにかなしそうな顔をするのだろう。 「ウィル……愛している、愛しているよ」 「うん……うん、あ、あぁっ……あぁあ、ッ」  愛を囁けば、それだけでウィルは感じていた。オーランドが愛していると言うたびになかがびくびくと収縮を繰り返す。次第にウィルの腰が砕けていって、動きが止まってゆく。何度もイって、身体がとろとろになって、オーランドにもたれかかって熱い息を吐いていた。もうだめ……身体はそう言っているのに、ウィルはまだ欲しいと言わんばかりにオーランドの首筋に拙いキスを繰り返す。「もっと、」、かすれ声のそれが聞こえた時、オーランドの理性は壊れてしまった。  オーランドはウィルを押し倒し、脚を思い切り開いてやって、腰を叩きつけるようにしてピストンをはじめた。最後までウィルの好きな体位でどろどろに甘いセックスをしてあげたかったが、もうだめだった。ガツガツと激しく奥を抉ってやると、ウィルの身体が大袈裟なくらいに跳ねる。目を見開いて、苦しそうに、それでも蕩けきった表情で、ウィルはただオーランドの欲を受け止める。 「あっ、あっ、あっ、あっ……」  肉のぶつかり合う音に、ウィルの嬌声が混じる。呼吸にも似た小刻みなその声の中に、オーランドの名前と「好き」という言葉が途切れ途切れに混ざっていた。突き上げるたびにウィルのものからは精が飛び出して、下半身はどろどろになっていた。 「ウィル……ウィル、好きだ、……好きだ」 「あッ……オーランド……」  ぐっとウィルの身体を掻き抱いてなかに吐精すると、ウィルは一層甘い声でオーランドの名を呼びながら、びくんと身体をしならせてイった。オーランドの背に腕をまわして、短い間隔で呼吸を繰り返し、しばらくなかに広がってゆく熱を堪能していた。 「ずっと……オーランドのそばに、いたい……忘れられたく、ない……ごめん、ごめん……オーランド、ごめん……」  うわ言のように、ウィルはずっと、そんなことを言っていた。「愛している、離れない」オーランドはそう言い続けてやったが、ウィルが泣き止むことはなかった。 「オーランド……好き、」

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