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*** ――海戦から三日後 「オーランド、外の風にあたりたくないか」 「いや……そうでもない」  オーランドは幸いにも命は助かった。この海賊団のなかにも数名死傷者がでてしまったが、平穏を取り戻しつつあった。……ただ、少しだけ変わってしまったことがある。 「本当に? 夜になったらおまえ、外でれないだろ。車椅子は椛が使うから」  オーランドはあの時に受けた傷のせいで、下半身不随となってしまって、一人では動けなくなってしまった。自分を庇ったせいだと思うと心が痛むが、あそこに自分がいかなければオーランドは死んでいた。不幸中の幸いとでもいうのだろうか。ウィルは負い目を感じつつも、オーランドが生きていて本当に良かったと思っていた。 「……ウィルが外に出たいんだろ? いいよ、連れていってくれ」 「……ばれた?」  オーランドを連れて、甲板まで出て行った。海の見えるところまで移動して、潮風にあたる。 「詞、完成したんだ」 「ああ――曲のか。教えてくれよ」 「ん~、読み上げるのは恥ずかしいから、これ、みて。書いたから」  ウィルはポケットから紙を取り出すと、それをオーランドに渡した。オーランドはそれをみつめ、どこか悲しそうな顔をする。 「……やっぱり、なんだか哀しい詞だな。まるで、おまえが死んじゃうみたい」 「……死なないよ」  ウィルが紙を持ったオーランドの手を包み込むように握った。そしてオーランドの前に跪くと、オーランドの手を額にあてて、祈るように目をとじる。 「貴方が、この曲を歌い続ける限り……俺はずっと、生きている」  人魚姫のように、自分の存在は泡となって消えるだろう。呪われた青い海へ、還るのだ。潮風を、浴びておきたい。体を海に慣らしてあげよう。跡形もなく私が消えてしまったら、その時はこの歌を、そのとき貴方が愛している人と共に、唄ってください。その唄が海へ届いたら……きっと私は、幸せになれる。

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