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「……紅っ!」
「群青……どうしたの……!?」
なかなか帰ってこない椛と群青を心配していた紅は、勢い良く扉をあけて帰ってきた群青に、驚いた。傘はどこへ置いてきたのかずぶ濡れで、その表情は切羽詰まっている。いつにない慌てた彼の様子に、紅は不安を覚えた。
「あれ、群青……椛様は……」
「紅、さっきは悪かった、頼みがある、きいてくれ……!」
「ど、どうしたの……おちついて……」
「椛がいない……どこにも……!」
「えっ……」
「あの時と……同じだ。あの人が死んだ直前と……! この雨だと俺の嗅覚が鈍って探せない、おまえの「真実の目」を使って探して欲しいんだ……!」
紅の腕をつかむ群青の手は、震えていた。紅は動揺しながらも、群青をあやすように抱いてやる。
「椛を嫌い」といつも言っている群青が、椛がいなくなったことでここまで取り乱しているということを、紅は不思議に思った。いつも一緒にいたのだから好いていなくても姿を消してしまったら動揺してしまう……というのはわかるが、群青のそれは異常なくらいだった。どうしたのだろうと心配のあまり「真実の目」を使ってしまった紅は――ひどく後悔する。
「あっ……」
群青の心から流れてきたのは……桜の花弁が散る中に横たわる、無残に嬲られた死体の映像だった。思わず吐き気を覚えてしまうほどにその体は、食いちぎられ、引き裂かれ、見るに耐えないほどに痛めつけられている。
「また……また、殺される……俺の知らないところで、きっと、助けを求めて……」
「群青……群青、しっかりして! 椛様とあの人は違う、大丈夫よ、早く探しにいきましょう! 急げばきっと間に合うから!」
「救えない、俺は……また、」
「群青! 貴方がそうやってぐだぐだしているうちに大変なことになっているかもしれないのよ! そんなこと言っているなら早く行くの! ほら、急いで!」
自分にしがみついてくる群青の背中を、紅がぱしりと叩いた。そして群青の手をとると、傘をもって外に飛び出した。
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