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追憶・桜の花23

*** 「どうぞ」  縁側に座っている紅に、群青は茶を運んできてやる。盆が隣に置かれると、紅はぺこりと頭を下げた。群青も彼女から少し距離をとって、腰掛ける。 「紅、だよな? 紅はいつから宇都木家の式神になったんだ?」 「……最近です。一年くらい前」 「ああ、じゃあ俺と同じだ。俺も一年くらい前に柊様の式神に……させられた」  昔の冷たい態度をとる柊を思い出し、群青は笑い出す。思えばあの態度は、自分が妖怪であることに加え、人との接し方がよくわからない柊が、寂しさを隠すためにやっていたもの。随分と自分に心を開いてくれたんだと思うと、愛おしさで胸がいっぱいになる。  思い出に耽って穏やかな表情をしている群青を、紅はそっと見つめていた。ぱっちりとした大きな目で。 「……群青様は、柊様と恋仲にあるのですね」 「……ん、おお? え? なんでわかるの」 「貴方の心のなかに、柊様との思い出がいっぱいあります。昨夜の秘め事も、全部」 「……え、ええ? ちょ、ちょっと待って」  突然柊と自分の関係を言い当ててきた紅に、群青は驚いてしまった。しかも、まるで心の中を覗ける、そんなことを言っている。 「……もしかして、読めちゃう? 相手の考えていること」 「はい。お兄様からいただいた「真実の目」の力で」 「ま、まじっすか」  これは滅多なことは考えられないぞ、そう思って群青は焦る。最近連日して柊の肌に触れているが、それまで覗かれるのはさすがに恥ずかしい。 「……あまり、柊様との情事に満足できていないようですね」 「あ、あの!? 心の中覗くのやめよう!? っていうかできてるから! すっごい満たされるから!」 「心は満足できていても、体は満足できていないでしょう。柊様の見ていないところで、一人でご自身を慰め」 「待てって! 女の子がそんなこと言うんじゃない!」  こいつはとんでもない女だ! 群青はじりじりと紅から距離をとる。まさか、自分で抜いているところまで見られるとは。恥ずかしいを通り越して寒気を覚えてしまって、もはやこの場から逃げてしまおうとまで考える。  しかし、焦る群青と比べて紅は無表情。男のそんな事情を覗いて顔色一つ変えないのは少し変だ、群青はそう思った。紅について色々と疑問を覚えていると、突然、紅が立ち上がる。そして、群青の目の前まで移動して、じっと群青を見下ろした。 「群青様」  僅か、春の匂いが混じり始めた風が、紅を撫ぜる。さらさらとした黒髪が靡いて、綺麗だった。好意など抱いていなくても目を奪われてしまう彼女の容姿に、群青は固まっていると、紅は淡々とした口調で言う。 「私が群青様のお体を慰めてあげましょうか」 「……はいい!?」

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