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「どうしたんだい、メル……浮かない顔をして……」
「う、ううん……なんでもないよ、義父さん」
その日、メルはずっと椛を襲おうとしてしまったときのことを思い出しては苦悩していた。椛をそういった対象としてみたことがなかったのに、なぜあの時突然襲ってしまったのだろう、と。相変わらずの美味しくない食事が更にメルの鬱屈とした気分に拍車をかける。ああ、美味しくない美味しくない……そう思って、ちらりとトレーシーを見つめる。やっぱりトレーシーは美味しそうに食事をしていて……おかしいのは、自分。
……それにしても、義父さんの指を食べてみたなら……どんな味がするのだろう。
「――そうだ、メル」
「……ッ、な、なに」
「もうしばらく、外出を控えて欲しいんだ」
――あれ。
今、自分はおかしなことを考えなかったか。とんでもないことを考えてしまった、という事実を信じられない――そんなふうにメルはなんでもない顔をして、トレーシーの言葉に耳を傾ける。
「町にね、行方不明者がでてしまったんだ」
「……ゆくえ、ふめい?」
「アイシーさんだ……ずっと、姿をみせないらしい。悪魔の仕業かどうかは定かではないんだけどね……危険だから、あまり外にでないで欲しいんだ」
「アイシーさん……そ、そっか……わかった。アイシーさんもはやく見つかるといいね……」
アイシーはたしか花屋の娘だった。あまり話したことはないが、とても綺麗な人だった……メルはそう記憶する。しかし、彼女が行方不明になったことよりもやはり、自分の身に起こっている異変が気がかりでしかたなかった。
喉が乾く。腹が減る。もっと美味しいものを食べたい。
人として皆もっているはずの本能を――なぜ、こんなにも自分は恐れているのだろう。
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