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ロランは連れて行かれるナギの背中を見送って、ふん、と息をついた。そして部屋まで戻ったところで――
「んな……」
部屋に、いないはずのものが居ることに気付く。
「き、貴様……どうして」
「やあ、王子様」
部屋にいたのは、いつの日か現れた盗賊――エルヴェ。エルヴェは平然とロランのベッドに脚を組んで座っていた。
「王子様もお目が高い! ずいぶんと可愛らしい子を見つけたね」
「……貴様、どうやって部屋に入ってきた」
「どうって……このあいだも見せただろう? そこの窓から入ってきたんだよ」
「また貴様は俺の部屋に勝手に入って……殺されたいのか」
「あっはっは! できるもんならやってみなよ。無理だと思うけど」
エルヴェは楽しそうにカラカラと笑っている。ロランはイラッとして、兵士を呼びださんと部屋を出ようとした。しかしエルヴェに「待って待って」と呼び止められて、じろりと睨みながら振り返る。
「あの子さあ……丁重に扱うべきだと思うんだよね。きみのような獣に付き合わせるのは、かわいそうだよ」
「なんだと?」
「そうだ、いい提案をしよう! 獣の王子様!」
エルヴェはひょいっとベッドから下りて、するするとロランの近づいた。そして、するんとロランの胸元に滑り込むようにして距離を詰める。
「きみの夜伽には、俺が付き合ってあげる。どう?」
「……は?」
「ころころと女を変えてさあ、満足してないんでしょ? 俺が相手してあげるって言ってるんだよ」
「――……」
ふふっとエルヴェは笑って、ロランの頬を撫でた。
「な、……」
こんなにも蠱惑的に誘われたのは、ロランにとって初めてだった。みな、ロランを恐れて震えながら夜伽を行う。こうして笑いながら、まるでロランを揶揄うような態度をとってくるのは彼が初めてだったのである。
――おもしろい。
「その減らず口……相当自信があるようだな。それなら、今夜見せてもらうか。貴様が俺の『姫』になる素質があるかどうか」
「おおっ、ノリがいいじゃん、王子様! そうこなくっちゃ」
エルヴェはぎゅっとロランに抱きつく。ロランがギョッとしたのも束の間、エルヴェはくるくると踊るようにロランから離れて、部屋の扉の前に立った。
「さて、じゃあ手始めに――ここの財宝でもいただきにいこうかな」
「は?」
「俺は盗賊っていったでしょ? 無事王城に侵入できたことだし、サクッと宝物をいただきにいこうかと! 大丈夫、安心して! 夜伽はちゃあんとするからさ!」
「……は!?」
ひょいっと飛ぶようにエルヴェは部屋を出て行った。
自由にもほどがある。
ロランは慌てて部屋から飛び出して「捕らえろ!」と叫んだが――もう、そこにはエルヴェはいなかった。倒れている兵士がいるのみである。
「な、な……」
ロランは怒りにぶるぶると震える。そして、叫ぶのだった。
「なんなんだアイツ……! ふざけるなー!!」
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