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自分のもとにロランの招待状がくるなんて嘘だろう。そう思っていたが、夜になると兵士たちが乗った馬車がやってきた。兵士たちは抵抗するナギを引きずるようにして馬車に乗せてしまう。母の叫びも虚しく、ナギは王城へ連れて行かれることになった。
城下町に住んでいるナギの家からは、王城はそう遠くない。ナギが鬱屈としながら馬車に乗っていると、あっという間に王城へ着いてしまった。乱暴に馬車から降ろされて、ナギは王城へ連れて行かれる。
――王子の正体を受けた者は、「姫」となる。
そう淡々と説明を受けた。
姫となった者は、夜な夜な王子・ロランの夜伽の相手をしなければならない。昼間は、王子の身の回りの世話。王子のどんな命令にも従わなければいけない。
そんなことを聞かされて、「はい」と言えるわけがなかった。ナギは抵抗したが、それも虚しく縄で後ろ手に縛られて、王子の部屋へ連れて行かれる。
王子ロランは――獣のような王子、と呼ばれている。
傍若無人、悪逆非道、唯我独尊。それこそ人としての慈悲もない獣のような人間で、人を人として扱わないと言われている。どんな恐ろしい男が出てくるのかとナギがおびえていれば――扉から出てきたのは、痩身の美丈夫だった。
「あ……ナギ、と申します。このたびは……」
震えながらナギは名乗る。
ロランは美しい男だったが、あまりにも目が冷たかった。熱を感じないその瞳は、その視線だけで人を殺せそうだ。
ロランは黙ってナギを見つめる。上から下まで舐めるように見つめ……「ほお」と小さく声を漏らした。
「今度こそ、俺の探していたものかもしれないな」
「え……?」
「まあよい、下がれ。そのみすぼらしい服を着替えてこい。その後は……手始めに、唄でも歌ってもらおうか」
「唄……?」
ロランがふいっと手を振ると、兵士がナギの肩を掴んでどこかへ連れて行こうとする。
どんな命令でも従わなければいけない、と聞いていたので、もっと酷い命令をされるのかと思っていた。しかし、唄を歌えと言われてナギは戸惑う。そんなことでよいのか、と。まあ、ナギは唄が得意というわけではないので、それはそれで困ったのだが。
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