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今日もローズヴィルの都市・ローズールは賑わっている。この街だけは、国の混乱を感じさせなかった。
そんな街に生まれ育った少年・ナギ。ナギはいつものように街の市場で買い物をしていた。
「おはよう、ナギ。今日はオレンジがおすすめだよ」
「おはようございます。じゃあ、オレンジをいただこうかな」
「まいどあり!」
ナギがローズールを歩けば、必ず誰かが声をかけてくる。ナギはローズールでも美しい少年だと評判であった。
この街に居れば、平和に暮らせる――そう、誰もが思っている。ひとつの不安の種を除けば。
「――ナギ! ナギ!」
市場の人ごみを掻き分けるようにして走ってきたのは、ナギの母であった。皆、何事かと彼女を見つめている。
そして、人々は。彼女が持っているひとつの封筒を見て息を呑んだ。
「ナギ……落ち着いて聞いて……」
母はナギのもとへたどり付くと、ナギを見つめて瞳を潤ませる。溢れた涙はぼろぼろと頬を伝っていた。
「ナギ……ロラン様に、選ばれたわ。今宵……私たちの家に、お城の人たちが来るって……」
「え……」
ローズールの人々が恐れていること。
それは、王子に呼び出されることであった。
王子からの手紙が届いたものは、否が応でも城へ向かわねばならない。そして、王子の相手をすることになる。……王子が飽きるまで。王子に飽きられれば、処刑されてしまう。つまり、一度王子から呼び出された者は、二度と帰ってくることができない。
「……っ」
ナギは絶句した。まさか、自分のもとへ手紙が届くなど思っていなかったのだ。自分は、男だから。
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