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04:ルッツとレナート02
「あ、雪……降ってきちゃったか」
はらはらと舞い始めた氷の結晶を眺めて、レナートは呟いた。
「雪?」
その声を拾ったルッツは不思議そうに首を傾げた。
「これが、雪、ってやつなのか?」
「きみは、雪は初めて?」
「……ああ」
ルッツの問いにレナートが問いで返すと、ルッツはどこか不満げに頷いた。
「俺は、寒いところがいまいち好きじゃなくてな」
「そうだったんだ……。なのにわざわざこんな雪の降るような日に付き合わせちゃってごめんね」
ふてくされるように目を逸らしたルッツに苦笑を浮かべながら、レナートが謝る。それにまた、別に。と呟いてルッツは息をついた。
「ついてくっつったのは俺だし」
そう吐き出される息は当然真っ白で。自分のそれにすら不満げに顔をしかめた。
「でも、王国のこんな北……観光地くらいしかないだろう? なんのために……」
まさかこんな時期に観光でもあるまいし。レナートに着いてやってきたローブンクアム王国の北の端。その地にあるめぼしいものといえば、暖かい季節こそ名所と囃される小さな町があるくらいで、彼が何の用があってこんなところまで来たのかがルッツには理解できなかった。
考えながら、うう寒いと身を震わせると、レナートが手招きをする。なんなんだと、少し空いてしまった距離を埋めるように大股で歩み寄ると、唐突に、抱きしめられた。
「!!」
突然のことに理解の出来なかったルッツは、抵抗もせずただその腕の中に閉じ込められる。
「な、な…!」
漸く理解するなり声を上げるが、レナートは気にすることなく、むしろ、その腕に力を込めた。
「なに、す…」
「うん? きみがあまりにも寒そうだったから」
「だからって!」
抗議をするために上げたルッツの顔は羞恥で真っ赤に染まっていて、レナートはくすりと笑みを零す。
「顔、真っ赤だよ」
「うっ、るさ……!」
レナートが指摘すれば、それを隠すようにルッツはぼすりとレナートの肩口に顔を埋めた。同じように寒い中を歩いてきたレナートの腕の中はあまり暖かくはなかったけれど、それでもひとりで立っているよりは幾分も暖かかったし、何よりまだ赤い顔を見られるのが嫌で、ルッツはしばらくそうしていた。
そのうち、レナートが僅かに動いたかと思えば、わあ見て見て。だなんて子供みたいに無邪気な声を上げるものだから、ルッツもつられて顔を上げる。
「なに……?」
「ほら、ちょっとの間にこんなに積もって。この調子で降り続けば明日は銀世界だね」
楽しげに語るレナートに合わせて、ぐるりと辺りを見渡すと、たしかに、雪がうっすらと地面を白く覆っていた。ルッツは、辺りに巡らせた視線をレナートに戻す。
「それで、これからどうするんだ?」
雪は積もれば歩くのに難儀すると聞いたことがあるとルッツが問う。けれどレナートはさして気にしていない風にそうだねぇ、と小さく首を傾げただけだった。彼は慣れているのだろうと思いながらルッツは、半歩、レナートから離れる。その隙間にを通り抜ける風が冷たい。
「風も出てきたし、近場の宿を借りて今日はもう休もうか」
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