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*** ―――――  ――  ―…… 「……やめ……ぁ、ああっ……」  冷たい牢獄のなかで響くのは、醜い肉欲の音。もう、何度絶頂に上り詰めたのかわからない。意識を飛ばしそうになっても水をかけられて、無理やり起こされ、そしてまた犯される。 「やめ、ろ……!! う、……」 「かわいくないねぇ……素直になりなよ、ほら、こんなに感じているくせにね!」 「あっ……あ、ああ、あ」  腕で体を支えることすらできなくなっていく。上半身は崩れ落ち、持ち上げられた臀部を調教師にみっともなく突き出す。突かれる度に、純情にも体は揺さぶれる。 「……お、まえ……なんの、つもりだ……!」 「……」 「……おい、聞いているのか……!! ノワール!!」  巨漢の男に激しく犯されながら、ラズワードは叫んだ。仮面をかぶった黒いローブを来た男、ラズワードをここへ連れ込んだ張本人。彼は犯されるラズワードのことなど眼中にないとでも言うかのように、部屋の片隅の椅子に座り、なにやら別の作業をしている。 「……ああ、どうした、ラズワード。悪い、聞いていなかったよ」 「……ぁ、……っざけん、な!!」  ノワールは手に持っていたペンを置き、ようやくラズワードに目を向ける。仮面に隠れた顔からは、表情は伺えない。  日中は剣奴としての戦闘の訓練。そのときは、ノワールはラズワードに付きっきりで様々なことを教え込んでいる。  しかし、夜の性奴としての調教。それはノワールは関わろうとはしない。牢に別の調教師が来て、彼らがラズワードに調教をするのだ。しかし、その時はなぜかノワールは牢を去らず、端の方で関係のなさそうな作業をしている。 「おまえは……! そこで、なにしてるって、……あ、聞いているんだよ!」 「ああ、これ? これは明日ここにくる奴隷の資料だね。整理しなきゃいけないんだ」 「だったらなんでここにいる! わざわざ別の調教師まで呼んで……!」 「ん? そんなこと気にしていたの? 別に難しい理由じゃないよ。性奴隷の調教なら俺じゃなくてもできる。わざわざ俺がやる必要ないでしょ。……とはいっても、君は稀少な存在だ。もし調教師が誤って殺害なんてしてしまったら困るからね。見張りを兼ねてここにいるんだよ。まあ、ただ見ているだけじゃあ時間がもったいないからこうして仕事をさせてもらっているけど」 「……っ」  ノワールは犯され続けるラズワードを見ながら、淡々とそんなことを言った。屈辱と快楽で濡れた瞳でラズワードが睨みつけると、ノワールが笑う。 「……あんまり俺のことは気にしないで。それよりワイマンに集中したらどう? せっかく彼、君のこと調教してあげているんだからさ」 「……誰が……!! っは……あぁっ……」 「……うーん、そうか。……ちょっとワイマン、どけてもらえる?」  ノワールがそう言えば、ワイマンと呼ばれた調教師は少し残念そうにどける。ノワールは小さくため息をつくと、少しバラけた紙束を軽く整え、立ち上がった。  そして彼は、ワイマンから解放されそれでもぐったりと動けないラズワードの前にたつ。ラズワードが虚ろに見上げると、ノワールはしゃがみこみ、ラズワードの顎を掴んで無理やり上を向かせる。 「ラズワード」 「……っ」  ラズワードはノワールの声に震えた。先ほどまでラズワードに受け答えしていたときの声とは全く違う。体の芯まで凍りつくような、冷たい声だった。 「そんなに、俺に調教して欲しいか」 「――っ」  ノワールの言葉と共に、一瞬体に電流のようなものがはしる。抵抗の言葉がすべて脳から消え失せる。頭が真っ白になって、ただ、ノワールを見上げることしかできない。 「……ワイマン。悪いけど、今日はここまででいいよ。……お疲れ様。またお願いするから」  ノワールがラズワードを見下ろしたままそう言うと、ワイマンは返事をして牢を去っていった。  牢の中には、ラズワードの呼吸音だけが響く。熱を帯びたそれが自分の耳に入ってくることにラズワードは羞恥心を感じたが、止めることはできない。 「俺もそろそろ思っていたんだ。ただ体を快楽に慣らす段階は終わりでもいいとね」 「……」 「次の段階だ。命令に絶対服従の体になってもらう」  そう言うと、ノワールは仮面を外した。その素顔が顕になり、思わずラズワードは目を逸らす。  まともにその顔を見たら、たぶん、彼に逆らえない。 「……目を見ろ。ラズワード」 「……」  氷のような声に貫かれ、勝手に体が動く。ラズワードは言われた通りに、ノワールの瞳を見た。 「……っ」  ノワールの素顔を見るのは初めてではない。戦闘訓練の際には、彼は仮面もローブもつけずにラズワードの相手をしていたからだ。  初めて彼の顔をみたときは少し驚いた。悪名を轟かせる施設のトップだというのだからどんな強面がその仮面の下からでてくるのかと思えば、彼の素顔は「綺麗」という表現が当てはまるような、整った顔立ちの青年だったのだ。肌の色は白く、身体の線は細く、どことなく弱々しい印象を受ける彼の容姿。しかし、その瞳だけがまるで闇を孕んだように深く黒く、強力な引力をもっていて彼全体から悍ましい雰囲気を醸し出している。  ラズワードは彼の顔が苦手だった。彼の顔をみると、身体の力が入らなくなってしまう。逆らえない。抵抗の意思すらも、湧いてこないのだ。 「これから俺が質問したことには正直に答えろ。いいな」 「……」 「ラズワード。今の君の体の状態を言ってみろ。……具体的に、だ」 「……な」 ――。

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