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 ノワールの問に、ラズワードはハと目を見開く。今の状態とは、言うまでもなく、ワイマンに犯され快楽がまだとどまっている状態のことだ。それを具体的に言えだなんて、それはラズワードにとって恥辱以外の何物でもない。   「……なんとも、ない……」  視界はぼやけ、熱はあがり、快楽の余韻が体を支配している。明らかに普通の状態ではないが、そんなこと、口にできるわけがない。ラズワードは声を搾り出し、ズクズクと疼く熱に耐え、ノワールを睨みつける 「……へえ、なんともない、ね」  体中の疼きを抑えつけるラズワードをあざ笑うかのように、ノワールは口元だけで笑う。その表情に、ゾクゾクとわけのわからない感覚が体を駆け巡ったのをラズワードは感じた。  ノワールは一瞬目を細めると、立ち上がりラズワードの後ろに回る。何をされるのかとラズワードが振り向けば、体を引っ張られ、後ろから抱きしめられた。 「君の基準がおかしいのか、俺の基準がおかしいのか……どっちでもいいけど」 「――っあ……」  す、とノワールの細い指がラズワードの上半身を撫ぜる。ゆっくりと、触れるか触れないかの微妙な触り方。彼が触れたところから、また熱くなっていく。指が動くたびに、ラズワードの体ははしたなく揺れた。 「肌に触れられただけでこんなになる状態は……なんでもない、とは言わないと思うんだけど。俺が間違っている?」 「あ……は、ぁあ……」  鎖骨をなぞられ、ひく、と肩をすくめる。そうすれば、耳たぶを軽く噛まれ、逃げ場などないのだと、そんなことを思い始めてしまう。 「もう一度言う……正直に、答えるんだ。……今の君の体は、どうなっている?」   「んっ……!」  耳元で囁かれた声に、一瞬視界が白くスパークしたような気がした。甘いようで、冷たい声。聴覚から犯される感覚に、体は反応してしまう。 優しく首筋を撫でられ、その暖かさが体に染み渡る。ギリギリで保っていた理性とプライドが、その温もりに溶かされそうだ。  体の力が抜けていく。くたりとノワールに身を委ねると、体を抱く彼の腕に僅か力が篭ったのを感じて、さらにその心地よさに体を預けてしまう。   ――すべて、彼に支配されている。 ――快楽も、理性も、何もかも。 「……は、」  全身を身動き取れないように、太い荒縄で縛られたような。そんな感覚。今、自分に決定権などない。今この体を支配しているのは、この脳ではなく、彼なのだ。  それを感じた瞬間、体の体温が上昇していく。抵抗など許されないのだから。彼から与えられた快楽は、余すところなく受け止めなければいけない。  ラズワードの視界が、くらくらと白み始める。 「……っ」 「!」  しかし、すべてを彼に捧げようと、恐ろしい考えが頭に浮かんだその時、何かが頭を掠める。  血の色。悲鳴。闇を纏う姿。  世界の闇の頂点に立つ、この男の残像。そうだ、この男は邪悪な人だ。レイを殺し、グラエムを虐げ、たくさんの人々を苦しめてきた。  こんなやつに、従おうだなんて思ってはいけない。こんな快楽なんかに、飲まれてはいけない……!   唇を噛み、痛みで快楽を逃がそうと試みる。流れた血を見て、ノワールが微かに反応した。 「離せ……!」 「……」 「離せ! おまえの言うことなんかに従うか……!!」  ラズワードは力の入らない体でノワールから逃げようとした。しかし、当たり前だがそれは許されなかった。ノワールは腕でラズワードの上半身をしっかりと固定し、逃がすつもりはないようであった。 「……そんなに、抵抗することないだろう」 「――ひっ」  ノワールの冷たい声が耳を犯すと同時に強烈な刺激が、体を貫いた。乳首をきゅ、と摘まれている。散々ワイマンにイカされ、全身性感帯の状態だ。肌を撫でられただけでも感じてしまっていたのに、元から敏感な部分を刺激されたのでは。 「俺は何も難しいことは聞いていない。ただ君は客観的に自分の体の状態を俺に報告してくれればいいんだ」 「あっ、あ、ああっ!!」 「なぜ、それができない? この質問はそんなに君にとって答えづらいものなのか?」 「やめ、あ、あ、あ、あ!!」  チカチカと視界に火花が散る。くりくりと刺激を与えられ、淫らに体が反応する。体がしなり背をそらせば、腕で押さえつけられて、それは許されない。快楽から逃げることもできずに、断続的に官能に体が襲われる。 「もしも羞恥を覚えているのなら、その必要はないよ。君が何を言ったとしても、俺は君を笑うつもりもないし、嘲るつもりもないから」 「あ――だめ、あ、ああ、おね、がい……だか、ああああ、」 「そもそも今君が何かしら体に異常があるのだとしたら、それは俺たちに原因がある。君は全く悪くないだろう? 被害者だ。ただ体に予期せぬ刺激を与えられたためにいつもとは違う状態になってしまっているんだ。それを俺に言うことに、なぜ抵抗を感じる?」 「い、う……いう、から……! は、あ、ああ! やめて、ください……あ! おね、がいします……!!」  なんとか叫び、ラズワードはノワールへ懇願する。そうすれば、ノワールの手の動きは止まった。耳元で彼がやさしげに笑った声が聞こえた。  責め苦から解放されたラズワードはぐったりとノワールに身を預けた。体の熱を逃がすように呼吸の激しさが増し、額にはじんわりと汗が滲む。ぼんやりと何も考えることもできずにいれば、優しく髪の毛を梳かされて、いよいよ脳が蕩けてしまう。  この優しい手つきも、この男の調教の一環なのだろうか。こうして奴隷を堕としていくのだろうか。  そんな風に疑うことすらできない。先ほど胸を占めたノワールへの憎悪も嫌悪も全部、どこかへいってしまった。ラズワードは彼の体温の心地よさに、心をまかせてしまう。 「……俺……」 「うん」  消えてしまいそうなほど小さな声で言葉を発すれば、ノワールはラズワードの口元に耳を寄せてきた。ぽんぽんと軽く頭を撫でられて、気持ちいい。 「体が……熱いです……」 「うん。熱いだけ? 熱があるのとは違うんだよね」 「……どう言えばいいのか……わからない、です……刺激を受けたところが、……なんだか……」 「そう。じゃあ例えば刺激を受けたどこが変な感じがするの?」  ノワールの問いに、ラズワードは息を飲んだ。ギリギリのところで恥ずかしいことは言わないようにしているのに、これではまるで意味がない。どこが、と具体的に聞かれては、もうはっきりと言うしかないではないか。ラズワードはノワールの視線から逃れるように彼の胸元にすがりつく。 「……さっき、あの調教師に、入れられたところ、です」 「ふうん、じゃあそこは今どうなっているの。抽象的にでいいよ、説明してごらん」 「……動いて、います……」 「どんなふうに?」 「……その……ひ、ひくひくして、います……」  あまりの恥ずかしさに、涙がでてきた。いくらノワールが羞恥を感じる必要はないとは言っても、やはり恥ずかしいものは恥ずかしい。

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