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「そう。よく言えたね。ラズワード」
「……う」
「いい子だ」
「……っ」
堕ちる……。
堕ちる。
きゅ、と優しく抱きしめられ、耳元でそんなことを囁かれ。理性もプライドも自分を確立している全てのものが壊れていく。
「……自分で、確かめてごらん」
「……え……」
「動いているんだろう? いつもと違う動きで。自分で触ってみるといい」
するりと手を重ねられる。綺麗な指だ。さっきまでこの指で体を弄られていたのだと考えると、じわ、と体の中が熱くなっていく。
「あ、待っ……んっ……」
ゆっくりと自らの後孔を触らせられる。そこはワイマンに注がれた精液が溢れていて、濡れていた。ぬるりとした感触越しに、ヒクヒクと収縮する入口の感触が指に伝わってくる。
「どう? ちゃんとさっき自分で言ったみたいに動いている?」
「……はい……ひくひく、しています……」
「そうか、よかったね。じゃあ君はちゃんと時分の体のこと理解できているみたいだ、それならわかるだろう?」
「……なに、が……」
「自分の体が何を求めているのか、が」
「……!」
ノワールが目を細める。それを見た瞬間、きゅ、と入口が狭まった。
早くなっていく呼吸の間隔。上昇を続ける体温。
求めるものなど、わかっている。それは、自分にとって醜いとしか思えないものだ。
……それでも、それを彼は否定しない。それなら、求めることは、間違ってはいない……はず。
「……ほしい、です……」
「何が?」
「ここの中に、欲しいんです……いれたいんです……」
「そう」
こんなの、自分じゃない。自らこんな浅ましいことを望むなんて、ありえない。
そうして今の自分を否定すればするほどに、ひくひくと後孔が反応する。敵であった人に支配されるというマゾヒスティックな快楽。自分の信念に背く背徳感。じわじわと脳を侵略していく欲望。
ノワールが微笑んだのなら、もう、理性とプライドによる抵抗など、粉々に砕け散る。
「じゃあ、いれてごらん。見ていてあげるから」
「あ……ちょ、まって、……」
ノワールがラズワードの片脚をグイ、と引き寄せる。そうすれば恥部は完全にさらけだされてしまった。
男である自分がまるで女のような格好をさせられている。足を開き、体のすべてを許したような、そんな格好を。
プライドをズタズタにされた屈辱。恥ずかしさ。ポロポロと涙が溢れてきて、余計に惨めになってくる。
「さあ」
「……っ」
見上げれば、ノワールが見下ろしていた。目が会った瞬間、また、ゾクゾクと何かが体を駆け巡る。
――ああ、抵抗なんて、できない。
――もう、この人に支配されている。
「――は、あぁぁ……」
気づけば、指を自らの穴へ差し込んでいた。ぶちゅ、とワイマンの精液が指に絡みついてくる。こんなに注ぎ込まれたのか、とそんなことを思えばきゅ、と穴が収縮する。
「あ……あ……」
勝手に指が動く。くちゅくちゅといやらしい音が耳を刺激する。
「ラズワード、こっちの手は何もしなくていいの?」
ノワールにだらりと伸ばした左手を撫でられて、またぴくりと体は揺れる。
もっと、もっと、欲しい。頭に浮かぶ快楽の記憶。ノワールに触られたときの強烈な刺激。
必然のように、左手は胸のあたりへ誘われる。
「あっあ、ぁ……!」
乳頭を撫で、根元を軽く摘めば、全身に電流がはしる。抜き差しを繰り返す指の速度は増してゆき、いつの間にか二本に増えている。
「はぁ、ああっ、あ、あ!」
「どう? 自分の体の中。どんな感じ?」
「あ、んっ……しめ、つけ……あ! きつ、い……!!」
「そう……ほら、動きが止まっているよ。いいの、それで」
激しい水音。淫らな指の動き。頭に響く自分の嬌声。
屈辱。羞恥。凄惨。はしたなくみっともなく浅ましく。もはやいつかの面影などなく。ラズワードは快楽だけを求め、体を揺らす。
奥を突きたいがために、激しく三本の指を突っ込み、掻き回し。乳首をぐりぐりとつねれば、指を飲み込んだ淫らな穴はきゅうきゅうとそれを締めつける。滑稽にかくかくと揺れる腰は、自ら被虐心を煽り脳を蕩けさせる。
「あっあっあっああああ――……!!」
びくん、と体が海老反りになった。頭が真っ白になり、視界がチカチカと白んでゆく。
「はぁ……あ、ぁあ……」
びくびくと細かく揺れる体を、ノワールの手が撫でる。それがとても心地よくて、ラズワードは目を閉じた。
「いいかい、快楽を求めることは罪でもなんでもないんだよ。ヒトの遺伝子に組み込まれた、本能なんだ……」
「……は、い……」
「……あんまり聞いていないね。その様子だと」
「……ごめ、んなさ、……い」
ノワールの声が、体を包み込む。もっと聞きたくて、もっと彼を感じたくて、ラズワードはノワールに擦り寄った。そうすれば、ノワールは静かに笑ってラズワードの頭をなでる。
「ノワール……」
「ん?」
「ノワール、さ、ま……」
意識が遠のいてゆく。ノワールのシャツを握る手に力がこもらない。
ラズワードは、いつの間にかそのまま眠ってしまった。
「……おやすみ」
優しい彼の声は、夢の中へ溶けていく
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