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「……ここに来てどれくらいたった?」
「さあ……1時間くらいじゃね?」
同時刻、奴隷施設地下牢獄。神族によって捕らえられたトラウゴット達は、拘束されたまま牢獄に放置されていた。
そもそも悪魔が天使を襲うことは罪ではない。納得のいかないこの処置に、トラウゴット達の苛立ちは募るばかりであった。
「おまたせ」
「!?」
色気のない暗い地下牢獄に、可愛らしい声が響く。は、とトラウゴット達が顔をあげれば、そこには赤いローブと仮面を身につけた人が立っていた。
「げ、あれは……」
そこに現れたのは、ノワールと共に施設を束ねる神族の長、ルージュである。赤いローブと仮面を身につけた彼女は、カツカツとヒールの音を響かせながらトラウゴット達に近づいてきた。
「あなたたちの処置が決まったの。心臓をいただくわ。始めは奴隷に調教しようかという案もあったんだけど、貴方たちを苦労して調教したところで高く売れそうにないもの。美しくないしね」
「は……ふざけるな! 僕達がなにをしたっていうんだ! 悪魔が天使を襲ってなにが悪い! いくら神族だからって理不尽すぎるぞ!」
仲間が止めるのに構わず怒鳴るトラウゴットを、ルージュは鉄格子を隔てて見下ろした。そうすればルージュの仮面の下からは、小さなため息が漏れる。
「……貴方達、自分が襲った相手、誰だかわかっている?」
「ああ!? レッドフォードだろ! それがどうした!」
「そう、ハル・ボイトラー・レッドフォード。レッドフォード家の大事なご子息よ。レッドフォード家には私たちも贔屓していただいているから彼に手をだされるのは困るの」
「……だからそれが神族への反逆に繋がるっていうのか」
「わかっているなら結構。貴方達が今日のオペラの直後にハルを襲うという情報を私達は得ていた。なんとしてでも彼のことは守らなければいけないから、私たちの方で彼に護衛を付けたんだけど……騒ぎになっても面倒でしょう? 目立たないように一人で彼に接近して彼を護衛する必要がでてくる」
ルージュが肩をすくめ、腕を組む。
「でもね……流石に貴方達全員を相手に出来る人というのは限られてくるから……はあ、面倒なことしてくれたのね、本当に。アイツだって暇じゃないんだけど。ハル様の護衛のためにアイツが出たから、アイツの分の仕事が私に回ってきたのよ。嫌になっちゃう」
「アイツ……」
ルージュの言葉にトラウゴットが反応する。自分たちが囚われたときのことを思い出したのだ。
ハルの傍にいた、いかにも弱そうな男。治癒魔術も覚束無い上に、魔力も大して持っていない。
「……おい、アイツ、一体なんなんだよ! ありえないだろ……! 一人で僕達を……それに、魔力だって全然もっていなかった癖に……!」
――そうその男。ハルが気を失った瞬間に魔力量が膨れ上がり、一瞬でトラウゴット達を倒してしまったのである。その後来た神族たちにトラウゴットはここまで連れてこられたわけだが。
「魔力を持っていない……? ああ、多分ISでも使って偽造していたんじゃないの。アイツ用心深いし」
「IS……? 何言っているのか知らないけど……とにかく、あの男……普通の奴じゃないな……!」
「……そんなに気になるの? 彼」
ルージュが、ふ、と笑う。
すると牢に近づくとしゃがみこみ、仮面を外してみせた。その下の人形のような可愛らしい顔立ちにトラウゴット達は気圧されたが、それ以上に彼女の何を考えているのかわからない笑みに恐れを感じた。
「私はね、私がルージュであると知っている相手の前でこうして仮面を人前で外すなって言われているの」
「え……」
「でも、貴方達はどうせ死ぬんだし、見せてもいいかなって思った」
ルージュがにっこりと微笑んだ。くりくりとした大きな目は細められ、桜色の唇が綺麗な弧を描く。
「だから、同じ。彼のことも教えてあげる」
「……は?」
「彼の名前はね」
ふんわりとした彼女の髪が揺れた。そして、告げる。
彼の名を。
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