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―――――― ――― ―…… 「……は……」  硬いベッドの上に横たわる体が、荒い呼吸に揺れている。くたりと力のこもらない体で、ラズワードはぼんやりとある一点を見つめていた。  ベッドのすぐ脇にある椅子に腰掛け、何か資料のようなものを読んでいるノワール。今日の調教が終わって数分経つというのに、そこを動こうとはしない。前に彼がいっていた言葉が本当ならば、調教が終わった今、調教師を監視する必要はなくなったのでここにいる理由はないはずなのだ。 「……いつまで、……そこにいるんだよ」  かすれ声でそう言ってみれば、ノワールは目だけを動かしてラズワードを見やった。暗い瞳で見つめられて、ラズワードは本能的にびくりと震えた。 「区切りのいいところまでやろうと思っただけだよ」 「……ここでやるなよ……目障りだ」 「それは悪かったね、じゃあそっち向いていてくれないか」 「……」  悪いだなんて微塵も思っていないじゃないか。ノワールのあっけらかんとした態度にラズワードは苛立って小さく舌打ちをした。   「……」  ノワールが再びラズワードを見つめた。何を考えているのかわからないその目が、怖いとラズワードは感じた。  ノワールは手に持っていた紙束を脇の小さなテーブルに置く。そして椅子の向きを変え、ラズワードに向き直った。 「……な、何……」 「……ちょっとじっとしていてもらえる?」 「え……」  ラズワードは唐突なノワールの行動に目をぱちくりさせる。ノワールはそんなラズワードの反応を待つ様子もなく、ベッドに片手をついた。ぎょっとしたラズワードは反射的に逃げようとしたが、体が上手く動かない。   「ちょっ……何をする気だよ……もう、今日は……」  ラズワードは声を振り絞って、抗議の声をあげる。しかしノワールはその言葉を無視して、ラズワードの肩に手で触れた。  その瞬間、ラズワードの体に電流のような衝撃がはしる。 「はっ……あ、ああ!」  目の前に白い火花が散る。体がビクリとしなり、ベッドがギシりと軋みをあげた。  明らかに普通でない反応を見せるラズワードを静かに見つめながら、ノワールはその動きを止めようとはしなかった。右手でゆっくりと、体のいたるところを撫でる。その度に、ラズワードはガクガクと体を揺らした。 「や、やめ……も……やめて、ください……!」 「……」  許しを請うように涙を流したラズワードをチラリとみると、ノワールはようやく手を止めた。先ほどまで生意気な態度をとっていたのは嘘のように、ラズワードは弱々しく泣いている。ジロリとその顔を見下ろしてやれば、ラズワードは懇願するように首を振った。   「……こんなことだろうと思ったよ」 「……え……?」  ノワールはラズワードの乱れた髪を直してやると、椅子に座りなおす。そんな彼を追うように、ラズワードはノワールを見つめた。ノワールは小さくため息をついて、ラズワードの涙を指で拭ってやる。 「今日の調教師は……先週入ったばかりの新人だから、あまり加減ができないんだ。俺の役目はあくまで君が死なないように見張ることだから止めはしなかったけど……少し体が堪えているようだね。調教から時間が経っているのに、君の体はこの有様だ」 「……じゃあ……ノワール、さまが……ここに、残っているのは……」  自分の泣き顔を隠すようにして、それでもノワールの顔を見ようとしている。そんなラズワードの様子に、ノワールは辟易した。  そもそもノワールの呼称に「様」を使っている時点でラズワードの精神はそうとう弱っている。加えてこの様子。ノワールはやっぱり調教を途中で止めてやるべきだったかと、些か後悔したのだった。 「俺としてはここで君に死なれたら困るんだ。施設に多額の損害がでるからね。もしものことがあったら外に連れ出して治療をする必要がある」 「……っ」 「別に俺は君のことが心配だとか、そんな理由でここに残っているんじゃない。君の安全が確認でき次第、帰らせてもらう」  そう言うノワールの声と瞳は、どこまでも冷たかった。しかし、ラズワードは涙を拭ってくれたときの彼の手の温もりを思い出す。普通の人と同じように、暖かかった彼の手を。 「……っ、ノワールさま……」 「なんだ」 「いかないで……いかないで、ください……傍に、もう少し……いてください……」

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