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「……俺はね、君が思っているよりもずっと、君自身のことを愛しいと思っているよ」
「俺自身……?」
「だから、ラズワードが俺のことだけを見て自分自身の幸せを捨ててしまうのは、少し嫌なんだ。違う世界をみて。そして、違う幸せを知ってほしい」
「で、でも」
「もしも……そこで見つけた幸せが君にとって一番になったのなら、俺のことは忘れて。こんな俺のために君が幸せになれないなんて、俺が辛いから」
「……ノワール、様」
ラズワードはそっとノワールの背に手をまわす。ノワールは自分の服が濡れるのも構わず、強く抱きしめてくれた。
「……だから、ラズワード。おまえはハルに尽くすんだ。そこに行ったら、君にとっての一番は彼なんだ。それが、俺のためだから」
「……絶対、貴方のことを忘れるなんてことないです。俺の全ては……」
「……うん。……待ってるね」
くすくすと笑いながらそう言ったノワールには、なにか未来が見えているのだろうか。ラズワードはそんなことを思って、何も言えなかった。心の中で、「信じて」、そう思ってノワールのシャツを掴む。
「……少し、夢を見せてほしいんだ」
「……?」
「ここにいる間。そのときだけは、俺のことだけを愛して欲しい」
「だから……ここにいる間、とか……ん」
唇を塞がれる。唇を割ってきた舌に、ラズワードは躊躇わず自分のものを絡めた。口の中で熱を交わすそれも、抱きしめたその体も、全てが愛しくて、悲しくて、苦しい。涙がこぼれてもそれを拭うことすら時間が勿体無いように思えて、手はその背にまわしたままだった。
「――っ」
突然、体がビクンと跳ねる。先ほどランドに散々弄られたところに触れられて、強烈すぎる刺激にラズワードは小さく悲鳴をあげてしまった。
「……しないけど……これは、出さないとだよね」
「あっ、……」
「……壁に手、ついて。出しやすいようにここ、突き出して」
ランドに流し込まれた精液で入口がヌルヌルとしている。指でそこを撫でられて、ラズワードは体をふらつかせた。
ノワールに言われた体勢は考えただけでも恥ずかしくて、ラズワードは顔を紅くした。でも、この人にならば何をされてもいい、そんな想いでラズワードは黙ってそれに従った。ゆっくり後ろを向いて、壁に手のひらを添える。そして、恐る恐る臀部を突き出した。恥ずかしさのあまり、それは控えめにするだけであったが。
「……これで、大丈夫、ですか……」
「そう……指、いれるよ」
「……あッ……!」
つぷ、と音をたてて細い指がソコに入っていく。穴を広げるようにゆっくりと指は中で動いている。くちゅくちゅといやらしい音が耳に届いて、カッと顔に血が昇る。
「はぁッ、あ、ぁん……」
「……少し、声抑えて。まわりにまだ人がいるかもしれない」
「で、でも……あ、あぁっ」
ある程度ほぐれてくると、指が中を引っ掻くように抜き差しを始めた。精液を掻き出しているだけなのだが、指が調度イイところに何度もあたってラズワードの腰はビクビクと淫らに揺れ始める。
「あッ、んんっ、だめ、あぁ!」
何度も何度も、弱いところを指の腹で引っ掻かれる。もうそこに精液はないのに、そう思ってノワールがわざとやっているとラズワードは気付いた。「しない」ってそう言ったくせに。そう思ったが、もっとやって欲しい、もっとこの人に触られたい、その想いが勝ってしまった。ラズワードは目を閉じ、その快楽に静かに溺れていった。
「あ、あ、あ、」
「ラズワード……声……」
「……ノワール、さまが……んぁッ」
「……仕方ないなぁ」
ふ、とノワールが耳元で笑った。そして再びシャワーを流し始めた。シャワーホルダーで固定されたシャワーの水流は、容赦なく二人に降りかかる。服を着たままのノワールもずぶ濡れになっているが、彼は気にする様子もなく指を動かし続ける。
「……声、だしていいよ。この音で隠れる程度にね」
「……ん、無、理……! 抑え、られ、な……」
「……じゃあ、こっち向いて。塞いであげる」
ノワールは壁にすがるように寄りかかるラズワードに覆いかぶさるようにして、振り向いたラズワードの唇を自らのそれで塞いだ。シャワーの水流と激しくなる一方の快楽で立っているのも辛かったが、ラズワードは必死にノワールのキスに応える。少しでも多く彼に触れていたかった。
『ここにいる間』その言葉が酷く頭に焼き付いている。
違う。違うよ。「俺」はずっと貴方を愛している。
時間がないんだ、まるでノワールの行動はそう言っているようだった。少しでも長い夢を見ていたい、と。「しない」なんて言ったのに、こうして熱を交える。ラズワードが最後には違う人を愛すると、自分の願いは叶わないのだと。そんな彼の諦めをどこかに感じて、「絶対に貴方の願いは叶えてみせるから」と、そう言いたかったけれど、重ねられた唇がそれを許してくれない。このキスが苦しくて、気持ちよくて、切なくて、やめることができない。
「ん、ん、んんっ……」
指はいつの間にか3本に増えていて、抜き差しの速度もあがって。ジワジワと熱いようで寒いようで、熱い波が体を襲う。じゅぶじゅぶとシャワーのお湯と精液が指に絡まって、まるで愛液のように音をたてる。
「ふ、……ん、んん――!」
ガクン、と足から力が抜けてゆく。ノワールはラズワードを支えるように抱き寄せたが、そのまま二人で床に崩れ落ちてしまった。
「は、はぁ……ん、」
ノワールの胸にすがりつくようにラズワードは彼に身を寄せる。
「ノワール、さま……ノワールさまの、欲し……」
「ん、だめ。明日も早いでしょ」
ザアザアと降り注ぐシャワーの雨に打たれながら、ノワールはラズワードを抱きしめた。
「……ごめんね」
「……?」
「ラズワード……ごめん」
なんで謝るの。
かすれ声の「ごめん」に堪らなく悲しくなって、ラズワードはノワールに口づけをした。そうすればノワールは静かに微笑んで、目を閉じた。
――君の、未来を奪ったんだ
「……足りるかな」
「……?」
「……代わりに、俺の最期をもらって」
何を言っているんだろう。そう思った。
ただ、泣いているように見えたから、その瞳にキスをした。シャワーのお湯かもしれないけれど、たぶんこれは涙だったと思う。その黒い瞳が美しく、濡れていた。
シャワーの音だけが、虚しく胸に染み込んでいった。
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