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「……なあ、おまえ名前は?」 「……ラズ、ワード……」 「そうか、ラズワード。おまえは水の天使……神族のせいでどんな目にあってきた? 神族さえいなければ……そう思ったことはないか? ……おまえは強い。俺と手を組もうぜ……おまえと俺が一緒になれば、きっと神族だって潰せるさ」 「な、なにを……」 「さあ、ラズワード、答えろ。――俺はおまえが欲しい。……俺と、新しい世界を作ろうぜ」 「――……!」  くら、と視界が歪んだ。  レヴィの言葉は酷く甘いものに聞こえた。マクファーレンといえば天界三大貴族。もしも彼と手を組めば、神族と接触するチャンスは一気に増える。それにおそらくレヴィはマクファーレンの力全てを使って神族に挑むつもりだろう。一人で施設に突っ込んだところでノワールにたどり着くまでに力尽きるのがオチ。仲間が増えればその可能性を減らすことができるのだ。  イエスと、きっとそう言った。少し前ならたぶん即答した。しかしラズワードはそうできなかった。レヴィと……マクファーレンと手を組むということは、マクファーレンに身を置くことになるだろう。そうすれば……ハルの傍にいられない。  でも……神族と親交の深いレッドフォードにいても、きっとノワールを殺すことはできない。 「……っ、俺は……」 「おい、勝手なこと言ってんな」  ふと聞こえたエリスの声に、ラズワードはハと目を瞬かせた。エリスはズイ、とレヴィとラズワードの間に入って言う。 「こいつはレッドフォードの所有物だ。おまえにやることなんてできない」 「……誰に着いていくかはおまえじゃなくてそいつが決めんだよ。そいつの道はそいつしか決めちゃいけねェんだ」  今、自分はなんと答えようとしたのだろう。ラズワードは自分が怖くなった。  おちつけ、ここで面倒事を起こすわけにはいかない。 「……俺は、ハル様のことをお守りすると決めました。誰の命令でもありません。俺の意思です。……だから、貴方に着いていくことはできません」  ……嘘は言っていない。  しかし、心の奥、どこかにレヴィに着いていきたいと言っている自分がいる。ノワールを殺すための手段として今自分が手に入れられるものの中で、最も確実性があるのだ。 ――いいや、諦めろ。他にもきっと方法はある。 「ふうん? その忠誠心もさ、奴隷としてのものなの?」 「……違う、これは俺が本当に望んでいることです……! 大切な人のそばにいて、守りたいんです……!」 「へえ、なるほど。……まあ、無理やりってわけにもいかないよなァ。それじゃあレッドフォードとやっていることが一緒だ」  レヴィがニヤニヤと笑う。ラズワードに迷いがあることを見抜いているのだろう。ラズワードは自分の心の内がバレないように、ふい、と目をそらす。 「ラズワードってさ、たぶん剣奴だろ? おまえのそれは奴隷身分の奴が独学で身につけられるようなレベルの魔術じゃないし」 「……え、ええ……そうです」 「ああ、じゃあ……その水魔術は調教師に教えてもらったんだな」  レヴィはハッと笑ったかと思うとエリスを押しのけラズワードに詰め寄る。 「……その魔術だけじゃあ神族には敵わないぜ」 「……え」 「……神族が剣奴には敢えて教えない魔術ってもんがあるからな」  ラズワードは唖然と目を見張った。レヴィはそんなラズワードを見て、にっこりと微笑み、そして耳元で囁いた。 「――もしも俺に着いてくるっていうんなら……その魔術を俺が教えてやる」 「……ッ」  レヴィは息を飲んだラズワードの瞳を覗き込み、笑った。震えた瞳に、きっとラズワードの心が揺れたことを感じ取ったのだ。 「……レヴィ=マクファーレン……! 無駄話はそろそろ終わりにしろ! 俺は遊びにきたんじゃない!」 「ああ、そうでしたね。エリス様。ではそろそろ中に案内します」  のけ者にされてどこか怒り気味のエリスが怒鳴っている。レヴィはそんな彼の隣につき、屋敷への案内を始めた。歩き始めるその瞬間、レヴィは振り向き、唇だけで言った。 「――考えておけよ」 「……ッ」  ラズワードはただ黙って、二人の後ろを着いていくことしかできなかった。

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