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アンドレアとジュリアンナがそろって体調を崩しているのは、老体であるということもあるだろうが、ワイルディング家の資金が昔に比べ著しく減ったため、満足のいく生活をおくれなくなったということも起因していた。
「――よう、ラズ」
「……兄さん」
仕事が終わり、廊下ですれ違ったレイはラズワードに声をかける。びくりと怯えるように目をそらしたラズワードの肩を抱き、レイはそっと囁く。
「……おまえが手をだしてないのって、姉さんだけ?」
「……まるで俺から迫ったみたいな口ぶりですね。俺から手をだした覚えはありませんよ」
「ああ? そうなのか? ……どうだか。ここ最近急にこの屋敷のやつらがお前と関係をもっているとかさ……全員がいきなりお前に言い寄るわけがないじゃん。おまえが色目使ったんだろ」
「……使ってない」
自室へ戻ろうと一歩踏み出したラズワードを、レイは腕を掴んで引き止める。不機嫌そうに顔をしかめたラズワードを覗き込むようにして、レイは笑う。
「……まあ、いいんじゃねえの。すぐにホイホイひっかかるってことはさ……みんな「欲してた」ってことだし? 「おまえにソレを望んでいた」ってことだし? ……もっとやってやれよ。迷惑かけている分よ」
「……」
「それはいいからさ、こっちこい。ちょっと溜まってるんだわ」
「……ま、もう、遅い……」
ぐい、とレイはラズワードを引っ張り物陰に連れて行く。渋い顔をするラズワードを自分の前に座らせ、スラックスのファスナーを下げた。そうすればラズワードは観念したようにソレに手をのばす。ずるりとでてきたソレに躊躇いがちに唇を寄せ、そっと指先で撫で始めた。
「ラズ、それは何回やったんだ?」
「……それ、」
「フェラだよ。男ともヤってんだろ。それくらいやらされただろ」
「……3回くらい……」
「はあ、だったらヘタでもしゃーねーか」
ワイルディング家の屋敷の空気がおかしな理由。それをレイは知っていた。いや、知らないのは恐らくアザレアのみ。
ワイルディング家の屋敷の住人、従業員……全ての者が「憎悪」と「劣情」を抱いているからだ。そうなったのも全て水の天使であるラズワードを神族の施設に連れて行かれないように払っている免除金のせいである。高額な免除金は毎月、毎年払っていると名家であるワイルディング家といえども限界が生じはじめ、こうして破産の危機にさらされ始めたのだ。
言葉を覚え、世間を知り、自己をある程度確立させたラズワードが純情に自分のペニスをしゃぶっている様子をレイは黙って見下ろす。
そして一年ほど前のことを思い出し、レイは馬鹿にしたように笑った。
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