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「……おい、ラズ、オイルもってねぇ? 武器にサビが……」
ちょっとした用事でレイがラズワードの部屋を訪れたときである。扉を開けた先の光景にレイは一瞬固まった。
ラズワードがナイフの切っ先を自分の首にむけ、いまにも貫こうとしているのである。
「――ばっか! ……何してんだよ!?」
「……ッ! 兄さん……」
レイは走って、慌ててラズワードの手に持っていたナイフを弾き飛ばした。パニックになっていたからか訳が判らなくなって、同時にラズワードを殴りつけていた。そしてその拍子にバランスを崩し、ラズワードを押し倒す形で床に転げ落ちる。
「……おまえ、今……ソレで何をしようとしていた!」
「……何って……みればわかるだろ」
「ああ!? 世間知らずのバカヤローがいっちょ前に自殺か!? んなモンお前が知っていること事態驚きだよ! なんだよ、なんでそんなことしようと思った!」
息を荒げながらレイは怒鳴る。ラズワードはそんなレイを見ながらも表情一つ変えることなく言う。
「……俺のせいでワイルディング家がだめになりそうになっているんだろ。俺がいなくなったほうがいいじゃないか」
「……はあ? ……なんだって……?」
自嘲するように笑ったラズワードの表情に、レイは眉をひそめる。免除金のせいでワイルディング家が破綻しそうになっていることをどこでコイツは知ったんだ、と思うと同時に怒りが爆発した。
「てめぇ……何のために今までお父様が免除金払ってきたと思ってんだよ……! 今まで体壊してまで払ってきたのに、お前に死なれたら……バカみてーじゃねーか! 勝手に死のうなんてしてんじゃねー! お前の命はおまえだけのモンじゃねーんだよ!」
「……だって……俺がいるから……俺の存在のせいで……」
「おまえの存在の理由おまえが勝手に決めてんじゃねーよ。そんなに自分が悪いと思ってんならさぁ……」
レイのなかでドロリとした感情が湧いてくる。
免除金のせいで今までよりも生活が苦しくなってきたこと。両親が病に倒れたこと。ラズワードが幼い頃の目をそらしたくなるような受け入れがたい姿。そして――成長し、知性を持ち、自分というものをもち……容姿に美しさを増した、ラズワード。
様々な泥のような感情が混ざり合う。ラズワードのことを憎いと思っているはずなのに、その容姿に目を惹かれずにはいられない。ふとした時に脳裏に彼の姿が浮かんでしまうことを認めざるをえない。
気味が悪い。……この自分でも理解できない感情が気持ち悪い。
「――罪滅ぼしだよ……おまえに迷惑かけられた奴ら……この屋敷にいる奴らが望んでいることくらいわかるだろ?」
「……望んでいる、こと……」
「……おまえもさ……その歳だろ……周りの奴らがお前を見る目……気付いていないわけじゃないよな?」
「……!」
ラズワードが瞳を震わせる。そんなラズワードの表情にレイはクッと笑った。頬を撫で付け、舌なめずりをすればラズワードは怯えたように唇を噛み締める。
「おまえが自分のしたことを悪いって思うなら……その分何かで償え。ほら……おまえにできることなんて一つしかねぇんだ……おまえの持っているもんなんてその小奇麗なツラくらいだろ?」
「あ……」
レイがラズワードのシャツのボタンを外すと、ラズワードはかすれた声をあげる。幼いころの記憶が蘇ったのだろう。拒否の言葉を発することもできず男たちの欲望のままに犯された記憶が。カタカタと震えだして、逃げようともがいてはいるが、しかしレイが押さえつけてそれを許さない。
「い、やだ……それは、いやだ……!」
「嫌じゃねえ! おまえ自分の存在がどんだけの人を苦しめていると思ってんだよ! おまえさえ生まれてこなければなぁ! 俺たちは平穏に生きてくことができたんだ! お父様もお母様も狂っちまうことなんてなかった、屋敷の奴らが盛ることだってなかった……! 全部おまえのせいだよ! 自分の生まれた罪を受け止めろ! そして償え! 死んで逃げようとなんてするなよ、おまえのもつ全てをもって謝罪しろ!」
「――……ッ」
ぽろぽろと泣き始めたラズワードの顔をレイは殴る。咳き込んだラズワードのシャツを破き、身にまとっている布全てを剥ぎ、抵抗の薄れたラズワードの脚を無理やり開かせ、慣らすことなく自分のモノを突っ込んだ。ラズワードが痛みで声をあげても、結合部から血が噴き出そうとも、速度を緩めることなくむしろ早めていき、冷や汗に汗ばむ体を押さえつけ、レイは自分が精を吐き出すまで腰を振り続けた。
犯している間、ラズワードは腕で顔を覆い隠し、ずっと泣いていた。ずっと「ごめんなさい」と、そう言っていた。
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