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「お出かけですか?」
言葉を話すことができるくらいまでに成長した息子の前にしゃがみこんで、筑紫は微笑む。いつもよりも鮮やかな色合いの着物を身にまとい、化粧をした母親をみて少年はぱっと目を輝かせた。
「今日はとてもいいお天気でしょう? どう、一緒にお散歩でもいかない?」
「はいっ……あ、でも……僕、まだお父さまに言われたこと全部終わっていません」
「……大丈夫よ、浅葱 はとても頭が良いもの……すぐに終わらせることができるわ」
少年は少し悩んだように俯いたが、やがて顔をあげ、笑う。
「……じゃあ、ご一緒させていただいてもいいですか、お母様!」
「ええ、もちろんよ、行きましょう。浅葱」
筑紫は少年用のクローゼットをあけると、中から小さな濃紺の着物を取り出し、少年に羽織らせる。
「とても似合っているわよ」
「……そうでしょうか……僕はこういった形の服が似合うような顔立ちではないと思うのですが……」
「あら、そう? 浅葱は私の子供だから、お着物も似合うわよ」
「……僕、お母様に似ています?」
「ええ、みんなから言われるわ。私と似てとても綺麗ね、って。ふふ」
「お、お母様は確かにとても綺麗ですけど……」
筑紫は少年の手をとって、歩き出す。部屋をでて、施設の廊下を歩いて行けば、みな振り返って筑紫のことを見た。淡雪のような白い肌、妖艶さをもつ切れ長ながらもはっきりとした瞳、絹のようにさらさらと靡く黒い髪。あまりの彼女の美しさに、誰もがほうっとため息をつく。
「筑紫さん、いってらっしゃい」
声をかけられて、筑紫はにっこりと笑って手を振った。少年がぺこりとお辞儀をすれば、みな微笑ましそうに笑ってくれた。
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