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*** ―――――― ―――― ――…… 「私は反対します」  部屋のなかに、女の怒声が響いた。落ち着いた色合いの着物を身に纏った彼女の腕には、小さな赤ん坊が抱かれている。見た目の通り彼女は穏やかな性分なのか、ひとつ怒声をあげることにも慣れていないため、こうして怒りを露わにした今、その体はかたかたと震えていた。 「筑紫(つくし)、よく考えてみるんだ、これは最後のチャンスなんだ。今、こうして施設が潰れかかっている、それを立て直すためには……」 「正気ですか……!? 貴方は自分の子供をなんだと思っているんです、この子は施設のために生まれてきたわけではありません!」 「私は本気で言っている! このタイミングでだ、この子が生まれた……運命だとは思わないか、私はこの子を「ノワール」にするべきだと思う」  それはそれは昔のこと。今こそ世界を掌握する組織として名を轟かせる奴隷施設は、崩壊の危機にたたされていた。原因は、度々おこる革命に施設が対応しきれなかったこと。施設のトップとして君臨する「ノワール」と「ルージュ」に十分な力がなかったのだ。  施設の「管理者」――「ノワール」と「ルージュ」の上にたつ地位を親の代から受け継いでいたバートラムは、頭を悩ませていた。現在の「ノワール」と「ルージュ」でも、一般的な神族たちと比べれば十分に魔力を持っている。そもそも彼らも厳密な審査のもと決定された「ノワール」と「ルージュ」であり、彼ら以上の力をもつものを探すことなど、ほぼ不可能だった。 ――しかし。  バートラムと妻・筑紫の間に生まれた子は――恐ろしいまでの力をもっていた。魔力量は現在の「ノワール」を遥かに上回るもの。加えて検査の結果非常に知能も高いことが判明。  バートラムはこの子供を「ノワール」にするべきだと考えた。それこそが、施設を運営していくための唯一の道。 「私は……絶対に嫌です……だって……だって、「ノワール」になるっていうことは……」  筑紫はバートラムの考えはちゃんと汲んでいた。親から受け継いだこの施設、守りたいという気持ちもわかっている。それでも、彼女は頷くことはできなかった。 「……この子が、幸せになれないっていうことでしょう……!?」  母親の心を、捨てることはできなかったから。

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