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「離せええええええええ!! ふざけるな、このバケモノが!! 人の心も持たない鬼が!! こんなことしていいと思ってるのかよおおおおおおお!!」 「……う、」 「おまえなんて地獄に落ちてしまえ、こんなことができる人間いてたまるか、人の皮被った怪物が、生きてる資格なんてあると思っているのか!!」 「……っ」  浴びせられる罵声に、少年はたじろいだ。さらにチェーンソーを近づけていけば女はまるで獣のような声を出し始め、いよいよ少年は恐怖を覚えた。 「死ね、死ね、死ねええええええ!! 生まれてきたことが間違っているんだよバケモノ!!」 「……なさい」 「消えろ消えろ消え失せろ!!!! 存在ごと消えてしまえ!!」 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」  ガシャ、とチェーンソーが床に落ちる。少年は、ガクリと膝をついて泣き始めた。  女の狂った叫び声と、少年の悲痛な泣き声、そしてチェーンソーの振動音が獄中に響いている。バートラムは静かに少年の背後に近づいていくと、そっとその手に自分のそれを重ねた。 「……おまえには早かっただろうか」 「ごめんなさい、ごめんなさい……」 「どれ、私が手伝ってやろう」 「……え?」  バートラムが立ち上がるのに釣られて、少年もそろそろと立ち上がる。バートラムは少年にチェーンソーをもう一度握らせると、離すことができないように両手で少年の手を包みこんだ。 「あ、の……」 「こうやるんだよ」 「……っ!?」  バートラムが少年をひっぱり、再び女のもとへ連れてゆく。そして、チェーンソーを振りかぶる。  目をひん剥いて絶叫する女。呆然とされるがままの少年。  手から伝わってくる、鈍い振動。 「ああああぎゃあああああああああああ」  頬に、ぴ、と生暖かい液体がひっかかる。それが何か、考えたくはなかったが、腕にぐっしょりとまとわりついたそれを見れば液体の正体は一目瞭然。だん、といやに重い音をたてて女の切り落とされた腕は床に落ち、そこから大量の血が吹き出ている。  その、あまりに凄惨な光景に少年は一瞬意識が飛んでしまった。ふっと頭の血が引いていったかと思うとよろけてバートラムに寄りかかってしまう。 「こうしたらすぐに止血する。失血死などされないように」 「……」 「返事はどうした」 「あ……はい」  声をかけられてハッとすれば、バートラムが女の腕の治療をしていた。泣きながら、獣のように声をあげて暴れる女のなんと無様なことか。本当に同じ人間なのかと思うほどであったが、同時にここまで気がふれた彼女が人間であるということに少年は恐怖を覚えた。自分たちの行いは、人間をこうしてしまうものなのかと。 「さて、次は左腕だ」 「あの……お父様、コレ以上やったら、この人……」 「死んだら次の奴隷候補を使えばいい」 「……そ、そういうことじゃ」 「……さあ、やるぞ」  バートラムが少年を引っ張るようにして再びチェーンソーを振りかぶる。少年はもはや抵抗する気が起きずにただただボーッと女の腕が切り落とされる様子を眺めていた。幼い少年には刺激的すぎる恐怖に、脳が感情をシャットアウトしたのだろうか。確かに自らの手で女の腕を切っているというのに、少年はまるでフィルムを通してみているように、その様子を冷静に見つめていた。  なんで、どうして。なぜ、お父様はこんなことをやっているの。 「……う、」  しかし、少年の自己防衛にも限界はあった。突然胃液がこみ上げてきて、嘔吐してしまう。バートラムはそんな少年の様子に気付くと、ぱっと少年を開放して、床に崩れ落ちた少年を冷たい目で見下ろした。 「やだ、いやだ……は、……こわい、こんなの、……まちがっている、じゃないですか……」  少年は泣きながらそう呟いた。バートラムはそれを聞いてため息をついたかと思うと、さっさと女の脚も切り落としてしまう。 「……今日はこれで終わろうと思ったが……予定が変わった。次、違う部屋にいくぞ。着いてきなさい」 「……え」  ひゅーひゅーと女の口から溢れる呼吸音だけが、牢に響く。

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