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*** 「まって、ころさないで……!」  鎖に縛られた女が、絞り出すような声で言った。目の前の少年に懇願するように濡れた瞳で許しを訴えていたが、がくがくと震えだしたかと思うと嘔吐してしまった。彼女は施設で奴隷として出荷できるように調教されていたのだが、過度なストレスによってすぐに嘔吐するようになってしまったらしい。そのため「失敗作」として殺処分されることになったのだった。 「……ごめんなさい、決まってしまったことなので」  少年が銃口を女の額に向ける。女は恐怖のためかさらに嘔吐を繰り返した。吐くものもなくなって、次第に胃液だけを吐くようになり、それでも肩を震わせて吐き続ける。銃の冷たい感触を感じると女は目を見開いていやいやと首をふり、ぼろぼろと泣き出した。 「おねがい、やめて、やめてください、わたし、しにたくない、しにたくないんです……奴隷でもいいから……生きさせて……」 「……奴隷として生きることは辛いですよ。大丈夫です、痛くないようにしますから」 「辛くても……私を守って死んだ、両親と誓ったんです……死ぬ直前に、おまえは生きろっていった両親に……私はなにがなんでも、最後まで生き抜くと誓いました。だから……お願いします、殺さないで! 吐かないように頑張りますから……努力しますから……!」 「……っ!」  どくりと少年の心臓が跳ねる。生きたいと訴える彼女の瞳をまっすぐにみることができなかった。 「……そ、そうですね、貴女の場合その嘔吐癖さえ改善できれば……」  もう一度、検討を頼んでみます、そう言いかけたところで少年は固まる。バートラムの命令に少しでも逆らうようなことをすれば……また、化け物に犯される……「お仕置き」をされる。 「――あ、あああ……」  あのときの記憶がフラッシュバックする。誰にも声が届かない牢にいれられて、気味の悪い化け物に襲われた、アノ記憶が。  勝手に、指が引き金に触れた。まて、まて、彼女は死ぬべきじゃない、そう頭の中で唱えているのに、体が勝手に動く。体があの恐怖を覚えていた。もうあんな目にあいたくないと、体が叫んでいた。震える指先は、ゆっくりと手前に。 「いや……殺さないで、お願い……」 「う、……」 ――「オシオキダ」 「……お父様、許してください……良い子に、してるから……」 ――けたたましい銃声が、耳を劈いた。

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