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 以前からノワールは自らの死を望み、そしてラズワードはそれを叶えてみせると、そう誓っていた。ノワールがこうした発言をすることには驚きを感じなかったが、あまりにも鬱屈とした彼の様子は流石に心配になってしまう。何と声をかければよいかと悩んだところで、先日出会った「少女」のことを思い出す。 「ノワール様、ルージュ様とは上手くやっていますか?」 「……ルージュ? あ、あぁ……」 「彼女、今までのルージュ様とは少しタイプが違いますよね。なんというか、すごく純粋で……」 「……どこかで会ったの? 素顔の彼女と」 「先日のパーティで」 「あぁ、そういえばレッドフォード家も参加していたんだったね。ルージュ、ばれないようにしろって言ったのに……ラズワードが少し鋭すぎるのかな」  ノワールはルージュの話をだすと、一瞬笑ったが、すぐにまた瞳に影をおとす。 「ルージュ、純粋だろ? 俺と違って」  ノワールがグラスを一気に傾けて酒を飲み込む。カラン、グラスは透明な音をたててテーブルの上に置かれ、ノワールは雨粒に叩かれる窓を頬杖をついてみつめた。 「彼女、昔から知り合いなんだ」 「えっ、そうなんですか。ノワールである貴方が……珍しいですね」 「うん、たまたま出逢って、……彼女がルージュになったときには驚いた。こんな組織のなかに入ってくるなんて」 「初めてみたときはまるで女王様みたいで、これがルージュかって慄(おのの)きましたけど……パーティーで素顔をみて驚きましたね。あんなに純粋に貴方のこと……」  そこまで言って、ラズワードは口を噤む。あんなに純粋に貴方のことを想えるような人なんて、そう言おうとしたが、ノワールがルージュの好意を知っているなんて確証はない。が、焦ったラズワードとは裏腹にノワールはとくに驚く様子もなく、乾いたように笑う。 「……そうだよ、彼女は純粋に、俺を好いてくれている」 「えっ……知っているんですか」 「ああ……すごく――煩わしい」 「……!?」  ノワールの発言に、ラズワードは目を見開いた。まさか、彼はルージュの気持ちを無下にするとでも言うのか。応える必要まではなくても、そんなふうに言うことはないじゃないか――ラズワードがそう、ノワールに不信感を抱いたとき。 「俺のなかで蠢く、感情が……鬱陶しい」  ノワールがそう言ってその顔に浮かべたのは……悲痛な色だった。思いつめたように瞼を伏せたかと思うと、自嘲するように嗤う。 「……俺ね、リリィを……自分のものにしたい」 「……好きってことですか?」 「好き……そんな風に言えればいいね。でも俺の想いはそんなお綺麗なものじゃないよ。彼女を組み伏せて犯してやりたいって思っている」 「……いや、……えっと、言葉の選択間違っていませんか? 彼女もノワール様のこと好きなんでしょう? 同意の上での行為なら、犯すとは……それに、好きなら抱きたいと思うのもおかしいことじゃありません」 「……俺がどんな人間か忘れた? 俺の身体に何人の血が染み込んでいると思っている。俺は人間の皮をかぶった化物みたいなものだよ、純粋な彼女には触れることすら……俺には赦されていない」  淀んだ瞳。自分を見ているのだろうか。ラズワードはそんなノワールをみてズキリと心が傷んだのを感じた。 「……自分がどれほど醜い人間なのか知りながら……俺は彼女に触れたいって、そう思うんだよ。一緒にいればいるほどに、俺は……」  そのとき、店内が光る。外で落ちた雷の光が窓から入り込んできたのだった。 「……天気、ますます悪くなってきたね」  ノワールが言いかけた言葉を飲み込み話題を変える。混んできた店内を見渡し、一瞬考えたように黙り込んだが、やがて口を開く。 「……場所変えようか」 「そう、ですね……あんまり長居すると迷惑になるかも……」 「……すぐ近くに休むところあったような気がするから。雨に少し濡れちゃうかもしれないけど」 「まあ仕方ないですよね、迷惑かけるよりいいかも」  雨に濡れるのは少し困るが……ハルに頼まれていた物は雨に濡れないように包装されているし大きな問題はないかと、ラズワードは決断する。雨足がひくのも時間がかかりそうで、ずっとこのカフェにいるのは良くないということについても同意見だ。  そういうわけで、二人は席を立ち会計を済ませると、店をあとにした。

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