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「あっ……! ノワールさま、だめ……! 耳……あ、ふ、ぁあ……ッ、なめない、で……」 「感じてるくせに……好きだろ、こうされるの」 「ひゃ、……う……! そこで、ささやかないで……やだ、あ、ぁあっ」  ノワールの様子がおかしい、それはカフェで話したときから感じていた。異常に思い詰めたような、陰鬱とした表情。ノワールがこうした行動にでるときは、自分という存在を否定したくなったとき……それを、ラズワードは知っていた。ノワールはラズワードに「自分の死」を写し見ているから。  きっと、今ノワールは苦しんでいるのだろう。彼を救いたいと心から願うラズワードは、そんなノワールに手を差し伸べたい……とは思っている。が、それとこれとは別である。恋人がいる身で、この身体を抱かれるわけにはいかない。たとえ、ノワールが自分を抱くことで心が落ち着くのだとしても、だ。  ラズワードだってそこまで性にだらしなくない。貞淑にいきたい。……それなのに。心では、そう思っているのに。 「あぁっ……!」  身体が、いうことをきかない。    耳孔に舌を捩じ込まれて、ラズワードは肩を強ばらせた。ノワールの吐息が嫌というほどに聞こえてくる。頭の中がその音でいっぱいになって、それだけで全身が支配されたような心地になった。  息も絶え絶えに、ラズワードは縋りつくようにノワールの背を掻く。掴んだ瞬間に、微かに笑う声が聞こえて、もうだめだ、と思った。完全に下された。理性が、ノワールによって粉々に壊された。 「あっ……」  顎を掴まれる。そして、ノワールは体を起こしてラズワードを見下ろした。「言うこときけよ」そんな目で見つめられて、ゾクゾクして、それだけでイッてしまいそうになる。逆らえない。ノワールの前になると何をされてもいいという気持ちになってしまう自分が恨めしくも、狂おしい。 「だめ……ノワールさま、だめ……」 「大丈夫……誰にも言わない」 「でも、」 「俺のことだけ考えて」 「……っ、だめ、俺は、」 「……ラズワードがだめって言っても」  ぐ、と顔の距離を狭められる。目をそらせない。深い闇の色をした瞳に、吸い込まれそうになる。 「……俺とセックスすれば、俺のことしか考えられなくなる」 「……ッ、」  危険だ――本能でそう思った。本当に、この人に心を支配されてしまう……今までにノワールに抱かれた記憶から、ラズワードはそれを悟る。ノワールはラズワードの感じるところを知り尽くしている――それこそ、ハル以上に。心がどこを見ていようが、ノワールに抱かれれば、彼のことで頭がいっぱいになってしまうだろう。だから、抱かれるわけにはいかない。抱かれるわけには…… 「あ、あっ……!」  ノワールは逃げようとするラズワードの背を抱いて、胸に唇を這わせた。乳首の根元から口に含み、吸い上げる。 「あっ……そこ、……だ、め……!」  たまらずラズワードは仰け反って叫ぶ。ほんの少し胸を弄られただけなのに、イッてしまいそうになった。腰が砕けて、へろへろと力が入らない。つま先だけが虚しくシーツを掻いて、ノワールの責めからは逃げられない。 「あっ……うそ、まって……とめて、ノワールさま、だめ、」  じわ、と絶頂の直前にやってくる感覚が生まれ出る。まだ少し胸を触られただけだというのに。ノワールに触られたというだけで……この身体はこんなにも狂ってしまうのか。自分の身体の変化が信じられなくて、ラズワードは狼狽えながら…… 「だめ、や、……あ、いっちゃ、……いっちゃう、いく、ノワールさま……あっ――」  イくことしか、できなかった。  あっさりとイッてしまって、ラズワードはもう、抵抗する気が失せてしまった。はじめから無理だったんだ、この人に見つめられて、この人を拒むなんて。この身体は……ノワールには逆らえない。  はーはーと息を吐きながら、虚ろな目でくたりとしているラズワードを、ノワールは冷たく見下ろした。さあこれからどうしてやろうという、嗜虐に濡れた瞳だ。 「悪くないだろ? もっと気持ちよくしてあげる」 「……や……も、ゆるして……」 「そんなに嫌がらないでよ……余計に燃える」  ノワールがラズワードの体を纏う布を全部はぎとった。つんと存在を主張している乳首、すっかりたちあがって先走りの溢れるもの……言葉とは裏腹に快楽に支配されきっているその体をみて、ノワールは口元だけで嗤ってみせた。もっと開いてやる、そんな狙いを定めた獣のような瞳に、じんとラズワードの身体が熱をもつ。 「んッ……」  ノワールがラズワードの身体を抱きしめるようにして覆いかぶさってくる。香水と彼の体臭が混ざった独特の匂いに、くらくらした。この匂いだけでイッてしまうんじゃないかと思うくらい。 「口……あけて」 「……や、」 「あけて」 「……っ」 「……いい子だ」  その眼差しが、拒むことをゆるさない。ラズワードが観念したように唇を薄くひらくと、ノワールがそこに噛み付くようにキスをしてきた。それだけで、身体が仰け反ってしまう。全身を押さえつけられて、舌で咥内を弄られ……頭のなかが、蕩けてしまう。 「んんっ……んー……ん、」  後頭部を掴まれて、キスが深められてゆく。なんて熱いキスなんだろう。普段冷静でポーカーフェイスの彼にそんなキスをされると、そのギャップにどきどきしてしまう。あんまりにも気持ち良くて、ラズワードは咥内を弄るその舌に、自然と自分のもの絡ませてしまった。 (ああ……今、俺……ノワールさまとキスしてる……)  もう、こうなっては「無理矢理された」なんて言い訳はきかない。同意したも同然だ。押し寄せる後悔と、これから待っている快楽への期待。相反する気持ちがせめぎ合って、よけいに興奮する。 (あっ、ノワールさま……そこ、舌先で、触って……ああ、触ってくれた、……すごい、ノワールさま、俺の身体のこと……本当に全部わかってる……)  キスはもちろん、して欲しい、そう思ったことをノワールはラズワードのわずかな動きから汲み取ってやってくれる。そのせいで、久々のセックスなのにまるで長年の恋人のようにぴったりと凹凸がはまるような、全てが満たされるようなセックスだった。とにかく、気持ち良い。最高に、イイ。

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