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*** 「こんにちは、ラズワードさん」  昼も近くなってきたころ、ミオソティスがラズワードの部屋に、食事を運んできた。結局、ラズワードは今日一日休みをとることになってしまったのだ。 「今日は一日、私がラズワードさんのお世話をさせていただきますね」 「い、一日……!? なんか……ごめん」 「いえ、私もラズワードさんのお側にいたいので」 「え?」  ミオソティスがポットに入った紅茶をカップに注ぐ。伏し目がちの瞳を飾る睫毛は、長く、影をつくっている。ラズワードはまじまじと彼女をみつめながら、発言の意味を思案した。「側にいたい」と……それは、どういうことだろう。自惚れたくはないが、まるで恋心を秘めた人の言葉のように思えてしまう。今までの彼女の言動から考えればおかしなことではないし……と悶々としていれば、ミオソティスがぱっと顔をあげた。 「すごく、心がざわつくんです」 「……ざわつく?」 「夢の中に、金色の龍があらわれました。立派な、美しい龍です。強い風と共にそれは現れて……寄り添ってきました」 「金色の、龍」 「現実の世界でも、風が服と金の龍のイメージが頭のなかに浮かんでくるんです。いつもは特に気にしていなかったんですけど……夢にでてきたのは初めてで、なんだか不安になって……」 「……それで、誰かの側にいたかった……ってこと?」 「……はい」  あ、なるほど……。ラズワードは肩の力が抜けるような感覚にため息をついた。ミオソティスの抱える悩みは正直まったく理解できないが、自分の側にいることで少しでも恐怖が和らぐのなら、それでいいと思った。

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