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*** 「うわ……すみません、ってリリィ?」  施設に帰ったノワールは、前方からぶつかってきた人物に驚いたような表情を浮かべた。彼女はなにやら急いでいたようで前もみていなかったのか、勢い良く自分の胸に飛び込んできた。ノワールが一瞬彼女がルージュだと判断できなかった理由は、その姿。普段はしないような化粧をして、服装も少し派手だ。 「……ノワール。ごめんなさい、前をみてなかった」  リリィは一歩さがると、じろりとノワールを見上げてきた。なにやら苛々とした彼女の様子に、ノワールは疑問を覚える。 「……リリィ、どうしたの?」 「……ノワール」 「うん?」 「……遅かったのね。何をしていたの」 「……え。い、いや……」 「……」  視線を逸らしたノワールを、ルージュは睨みつけた。答えは知っていた、そんなふうに。 「……ばか」 「え、リリィ……!?」  ルージュはぼそりとつぶやくと、そのままノワールを抜き去ってしまった。ノワールは彼女を引き留めようとしたが、なんと声をかければいいのかわからず、結局それはかなわなかった。  廊下をカツカツとヒールを鳴らしながら歩いて行って、ルージュは唇を噛む。じわ、と目頭が熱くなってきて、必死に涙をこらえようと我慢した。 「……殺してやる。ノワールのことをおかしくするあの男を、殺してやる……!」  ぽろ、とひとつこぼれた涙を手の甲で拭う。ああ、化粧が落ちる。そう思うとまたひとつ、涙がこぼれてしまった。

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