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「あっ、こんにちはーラズワード君!」
「……り、リノさん」
ハルに連れられて研究所へいくと、以前と同じメンバーがラズワードを迎えてくれた。リノには「危ない人」という印象を持っていたラズワードは、彼を見るなりびくりと体を強ばらせる。もう前みたいな変な手伝いはしたくないなあ……と思っていると、リノがすっとハルとラズワードにファイルを手渡してきた。
「これ、イヴについての研究報告書」
「……え」
「ラズワード君のお陰でイヴのことについて、だいたい調べがついたよ。彼の目的も、これからやろうとしていることも」
――イヴは、ラズワードと同じように「水」の魔力を持っている悪魔だ。ラズワードの場合、水の天使であることでその境遇からバガボンドへ流れることになったが、イヴは水の悪魔であったことで酷い生活を強いられていた。悪魔も水の魔力を持っていれば天使と同じように神族に施設に連れて行かれるのだが、イヴはしばらくは免除金によってそれを逃れていたらしい。しかし、その間にも周囲の悪魔から酷い差別をうけていた。さらに、イヴは「ルシフェル」の生まれ変わりであったことから畏れられていた。
そうして酷い人生を送ってきたイヴは、そうした人の穢さというものに敏感だったらしい。醜い魂を嫌うが故に醜い魂を嘲笑い――果てにはそうした醜さを好むようになってしまった。
「最近、イヴによって魂を持っていかれる人がいるんだ。天使、悪魔、人間――種族に関わらず」
イヴは自らの愉悦のために、自分にとって興味深い魂を持つ人間をあつめた世界を作り上げ、その世界を傍観して愉しむという計画をたてている。
その世界とは――一つの魂を「コア」――中核とし、彼の特有の魔術「夢魔術」によって夢の世界をつくりあげる。その世界に、イヴが魂を引っ張ってくる……というもの。コアとなる魂はおそらく歪んだ魂であり、つくられる世界もいびつなものとなる。そうした狂った世界で、集められた魂たちが踊っているところを観覧するのだ。
「ずいぶんと悪趣味な奴だな。その「コア」にされる魂は決定しているのか?」
「確証はないけれど、おそらく……人間の少女の魂が」
「はあ、人間の少女の魂、」
「イヴの魔力の痕跡が、その少女の家にあったんだ。少女の名前は亜璃珠。裕福な家庭の娘らしいけれど……」
リノが一枚の写真を二人に見せてくる。そこには、青いリボンとエプロンを身につけた金髪の少女が写っていた。
「……独特な格好をしているけれど、普通の子に見えるな」
「うーん、まあ、この子については詳しくはわからないからなんともいえないし、そもそも確証はないし」
リノはため息をつきながら椅子の背もたれにぐっと寄りかかる。リノはそうしてしばらくぼーっとしていたが……やがて、ゆらりとラズワードを指差して言った。
「それはそうと、ラズワードくん。君、気をつけたほうがいいよ」
「……俺?」
「君、イヴに恨み買っているでしょ。そのイヴのつくりあげる世界に引っ張り込まれる可能性があるし、それ以外にも何かをされるかもしれない」
リノの言葉に、ラズワードは息を呑む。イヴという悪魔は、かなり危険な悪魔だ。自分が手を出されるのならまだしも、身近な人たちにまで何かをされたら。あのとき歯が立たなかった相手だ、守ることができないかもしれない。
「イヴはね、おそらく相当性格が歪んでいるから……君を最も苦しめる方法を選んでくるだろうね」
ラズワードは、ちらりと隣に座るハルを伺いみる。今の自分の弱点といったら、彼かもしれない。愛している人。イヴが、ハルに目をつける可能性は、大いにあるだろう。
どうすれば――悩んでも、答えはでなくて。ラズワードは不甲斐ない自分に、嫌気がさした。
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