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リリィの魔力をたどっていけば、リリィは自室にいるようだった。さらに魔力の反応を汲み取っていけば、リリィはまだジャバウォックを召還していない。とりあえずはまだ無事だとわかり、ノワールは一瞬の安堵を覚える。
しかし、何を思ってリリィがロゼにあんなことを聞いたのか。それが気になって仕方のなかったノワールは、ドアのノックする。あまりリリィを責めることはしたくないが、このままでは彼女が死んでしまうかもしれないから。
「……ノワール」
部屋からでてきたリリィはノワールの顔を見るなりぐっと眉を潜めた。
少し前まで、リリィはノワールのことを見る度に嫌悪感を顕わにするような顔をしていた。しかし、今のこの表情はそれとは違う。ノワールへの嫌悪、というようにはまるで見えない。それが余計にノワールの焦りを煽る。
ここまで彼女の考えていることがわからないのは、初めてだったから。
「もしかして、止めにきた?」
「えっ……」
「あの人から聞いたんでしょう? 私が、何をあの人に教えてもらったのか」
「……、俺が止めるってわかってるんだね、じゃあ……どうしてそんなことをやろうと思ってるんだ。ジャバウォックがどれほど危険な魔獣か……わかっているんだろう」
「……ノワールってすごく頭がいいけれど、時々すごくばか」
リリィがふっと笑って、髪の毛を耳にかける。そんな彼女の仕草に、ノワールはどきりとした。こんな彼女は見たことがなかったから。
こんなにもまっすぐな目をした彼女を、ノワールは知らない。
「私、貴方が誰を愛しようが構わない。貴方が幸せになれるならね」
「リリィ……?」
「……言い直す。貴方を幸せにできないような人を愛することは、許さない」
じっとノワールを見上げたリリィの瞳が、涙に濡れていた。
リリィは固まってしまったノワールの胸ぐらを、両手で掴む。そして、力のない腕で彼を引き寄せて、そのままうなだれてしまった。
「笑わせないでよ……貴方は、今まで私の手をひいてくれたのに。そんな貴方が、死にたいって言っている。私がどんな気持ちになるか、わかる? ねえ……!」
「……、ど、どうしたんだよ、リリィ……」
「貴方を死へ導こうとしているのは、誰……! 貴方を惑わせるのは、誰……! 私はそいつが許せない、貴方の未来を軽々しく奪おうとするあいつが、許せない!」
「リリィ、おまえ、誰のことを言って……」
どんっ、とリリィがノワールを突き飛ばす。リリィの言葉に呆けてしまっていたノワールは、その衝撃を逃がすこともできずに、ふらりとよろけてしまった。
呆然と見つめてくるノワールを、リリィはじろっとにらみつける。ノワールの暗い瞳に映る、希望 が恨めしい。
「私の全てをかけてでも、あいつを殺すわ。私の命をジャバウォックへ捧げてでも、私はラズワードを殺してみせる」
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