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「なんでリリィはあんなことを……」
リリィに部屋から閉め出されて、ノワールは仕方なく自分の部屋に戻る。リリィがああして殺意を顕わにすることなど今までほとんどなく、しかもその相手がラズワードだというのだから、ノワールは混乱してしまっていた。ノワールがソファに横になっていれば、姿を現したグリフォンが寄り添ってきて、髪の毛をくちばしでもてあそんでくる。
「……そもそもリリィとラズワードの接点って……思いつかない。話す機会なんてほとんどなかっと思ったけど……」
「共通点はあるな」
「共通点? それこそ全然思いつかないんだけど。性別は疎か、立場もなにもかもが真逆だろ」
「ふん、神族一の賢人もこの問いには答えられないか」
グリフォンの言葉に、ノワールは体を起こす。
ソファの下に足をついていたグリフォンは、そんなノワールを見上げてにやりと笑った。のそりと起き上がり、ソファの上に乗っかる。そして、ノワールを押し倒し、ぐい、と顔を近づけた。
「答を知りたいか、愚か者」
「……お教えいただけるのであれば」
ぐ、とグリフォンが前足をノワールの胸に置く。体は獅子、ノワールの数倍の体重を持つグリフォンにそんなことをされると、息苦しい。軽い酸欠状態に陥って、わずか息を荒げるノワールを喰わんとする勢いでグリフォンはその顔をのぞき込む。
ノワールの首すじに、汗が伝う。唇から息が吐き出される音だけがしばらく響いて、暗い部屋には静寂が溶けてゆく。
「……おまえを、愛しているんだ。ノワール」
静かな、グリフォンの声。
ノワールはそれを聞くと、目を閉じる。そっと両腕を伸ばせば、グリフォンが吸い込まれるようにして、ノワールに覆いかぶさった。
しばらく、無言で抱き合う。ノワールの首には、獣特有の息づかいをするグリフォンの湿っぽい吐息がかかり、そこだけが濡れていた。
「……愛されて、ここまで絶望に涙する人間なんて、おまえだけだぞ」
「……泣いてない」
「泣いているだろう」
グリフォンが首をあげて、ノワールと視線を交わす。昏いその瞳は、たしかに乾いている。しかし……グリフォンは涙を拭くように、ノワールの目を舐めた。グリフォンを抱くノワールの指先が、ぴくりと跳ねる。
「涙の流し方が下手なだけで、泣いている」
静かに、グリフォンはノワールの目元を舐め続けた。ノワールはじっと動くことなく――その愛撫を受けていた。
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