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「なんだ、文句があるのか」
「あるからこうしてここに来ているのですが」
バートラムとノワールが挟む机に乗っているのは、一枚の紙である。そこには、とある「指令」が書いてあった。
それを見下ろすノワールの剣幕はすごいものであった。バートラムに対しほとんど反抗を見せないノワールであるが、今の彼ははっきりとバートラムに対し「抗議」を見せている。
「レベル5の魔物の巣だ。ルージュを派遣することのどこに間違いがあるという」
「指令」の内容は、近頃問題になっている魔物の巣を潰してくるというもの。レベル5の魔物の巣ということで、ハンターではなく神族による討伐が決定されたのだが、その指令を受けたのがルージュであった。ノワールは「ルージュをいかせるべきではない」とバートラムに抗議しているのである。
「あの巣の魔物は、異常に繁殖性が高い。あの魔物たちは、異性を見つければすぐに交尾をしてしまう。それがたとえ違う種族の生物でも、です。そして、その傾向が特に強いのが雄の魔物。知っているでしょう、襲われる人間のほとんどが女性で、しかも生殖器官が破壊されていると」
「……それで、女性であるルージュいかせるな、と?」
「そうです。カラバサ村の一件でもわかるとおり、ルージュは魔物の雄を刺激してしまう。あんなところにルージュを向かわせれば、きっと……」
「……今度こそ、ルージュが死ぬか?」
バートラムはノワールの言葉に、眉を顰める。ルージュを失えば、その損失はなかなかに大きい。だからといって、ルージュ以外の者を向かわせたところで魔物の巣を破壊することなど、できない。
「……では、誰が行く。おまえはスケジュールが詰まっているだろう。そうこの問題を引き延ばすわけにもいかない、早く魔物の巣を破壊しなければいけないぞ」
「……レッドフォードでいいのでは? あそこのハンターは神族よりも腕が立ちますよ」
「……レッドフォードのハンターの代理のほうが、だろ」
「私の教え子ですからね。当然です。それに彼は男性ですから、ルージュよりも苦戦することはないんじゃないでしょうか」
「……ふん。まあ……いいだろう。ではレッドフォードに連絡しておこうか」
斯くして、魔物の巣の破壊の指令はレッドフォードに下ることになった。神族と深い仲であるレッドフォードの手柄になるということで、バートラムも特に異論はないらしい。
ノワールは安心したようにため息をつくと、バートラムに敬礼をし、部屋を去っていく。
「……完全に仮面がはがれているな、馬鹿息子」
閉められた扉に向かって、バートラムがつぶやく。
当然その言葉は、ノワールには届いていない。
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