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「ハルさま……!」  なんなく――ラズワードはハルのもとへたどり着けた。いや、ロードリックが攻撃を緩めたのだ。  ロードリックとしても、奴隷であるラズワードを傷つけるのは本意でなかったのだろう。ラズワードに攻撃が当たらないように、攻撃を止めたのである。 「ハルさま、……これを……」 「ラズ……ありが、」  ハルがランスを受け取とろうと、柄を握ったとき。ラズワードは手を放さなかった。不思議に思ってハルがラズワードを見つめると、ラズワードはジッとランスを見つめたままである。 「……」 「……ラズ?」    ロードリックから見ても、それは不思議な光景であった。ランスを持って立ち尽くす奴隷。何もできやしない彼が、戦場に立って何になるというのか。 「おい奴隷。さっさとどけ。じゃねえとおまえごと殺すぞ」 「……」  ラズワードがグッとランスを握りしめる。そして――そのまま、ランスを自分のもとへ引き寄せた。自然と、ハルは手を放してしまった。 「ハルさま……ここは、俺が」 「え、ラズ……?」  ラズワードの目は虚ろ。それでも、武器を持つその姿は、どこか――  ラズワードは振り返って、ロードリックを見つめた。そして、ぎゅっとランスを握りしめる。 「なんだあ? おまえが俺と戦うつもりか? おまえなんかじゃ盾にもならねえよ!」  ロードリックは舌打ちをして、軽く腕を振った。そうすると、小さな波動が腕から放たれる。  ラズワードは握りしめたランスに隠れるようにして、身をかがめた。当然ながら――あっけなく、ラズワードは吹き飛ばされてしまう。 「ラズ!」  ハルは慌ててラズワードに駆けよった。ラズワードはランスを握りしめたまま、ハルに返そうとしない。 「ラズ、もう大丈夫だから……俺が戦う、だから……」 「……」  ラズワードはハアハアと息をしながら、ゆっくりと立ち上がった。すりむいた腕からは、血が流れている。 「……ラズ、?」 「……俺が、戦います。ハル様」 「……、」  唇も切ったのであろう、唇の端からも血が流れていた。ラズワードは手の甲で血を拭って――そして、魔術で傷を治す。 「え、ラズ……魔術、」  ラズワードは、薬の影響で魔術が使えなくなっていた。ハルがやったことだ。そのことを――つい先ほど深く後悔をした。  それなのに、ラズワードは魔術を使った。 「まさか……」  ふと、ハルは思い出す。  魔術を扱う者が使用する武器「プロフェット」は、魔力をコントロールする力を持っている。丸腰でいるよりも、プロフェットを持ったほうが魔術の精度があがる。威力があがる。  プロフェットであるハルのランスを持つことで、乱れていたラズワードの魔力が戻りつつあるのだろうか。  そして―― 「俺が……貴方を守ります。貴方と出会ったときから結んだ、貴方との契約です」 「ラズ……」  ラズワードは、己を取り戻した。戦場に立ったことによって。  ラズワードは困ったように笑って、ハルの前に立つ。ローブは風でめくりあがり、外套のようにはためいて、その背中はまるで騎士のようだった。

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