1 / 2
紫陽花
俺の友人──いや、ただ小中高とたまたま学校が同じ奴──は、まず顔がいい。勉強もできる。スポーツだってそつなくこなす。その上生徒会長。まるで少女マンガに出てくる主人公だ。いや、こんなつまらない設定、最近では見かけないかもしれない。とどのつまり誰もが憧れる存在なのだ。それこそ男だろうと女だろうと。
これで彼女の一人や二人いたら人間味が出るってもんだがそれもない。親しい友人もいない。部活にも入ってない。その上めったに笑わない。個人的にはこんなにも無機質でつまらない奴もいないだろうと思うのだが、人気があるのだから不思議だ。人というのは大方見た目に騙されるらしい。
アイツの少女マンガの主人公と違うところは、優しさというものを持っていないところだ。例えばアイツはほとんどの仕事を自分でやるし、その上できる限り早く終わらせて終わってない人の分も引き受ける。まわりの人たちはそれを優しいと称するのだろうが、あれは違う。自分でやったほうが速い上にクオリティが高いからだ。できることなら全て自分でやってしまいたいとまで思ってそうだ。
……失礼、私情が混ざってしまった。ここまで言えばわかるだろうが、アイツはモテる。だが告白されることはない。なぜなら、
「会長、あの、今お時間よろしいでしょうか?」
この声は書記か。いつもより若干声が上擦ってる。ちょうどいい、一緒に聞いているといい。
「……なんですか」
「あ、あの……その、」
「ああ、もしかして仕事が期限までに終わらせるのが難しそうですか?それならこちらで引き受けますよ。あれは少々厄介でしたし」
「あ……いえ、そうではなくて…………」
「そうですか。では何か疑問点でもありましたか?もし疑問点さえ解決したらできそうだ、というなら遠慮なく言ってください。あの仕事をあなたがやってくれるならこちらもありがたいですから」
ここら辺でいつものきつい目を少し緩めているのだろうことが容易に想像できる。それだけで簡単に相手が満足してくれることをアイツは自覚しているのだから。
ちなみにその仕事というのは数値を打ち込むだけでなんら厄介でも難しくもない。つまりわざとである。空気を変えるため、すなわち相手に告白させないための。
「どうしました?遠慮なく言って大丈夫ですよ」
わかっているくせにさも相手を気遣っているかのように問う。これがわざとだと気づくやつは告白などしないだろう。そんなクソ野郎、絶対にごめんだ。
「あ…………の、……こ、この数値なんですけど、ここに入れますか?別にまとめますか?」
「これはこちらとまとめてください」
「……わかりました」
「ほかに何か疑問点はありますか?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございました……」
「よろしくお願いしますね」
こんな奴に告白とは、まったく趣味が悪い。
花言葉『あなたは美しいが冷淡だ』
ともだちにシェアしよう!