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「んっ……うっ、……あっ、……」  おかしい。おかしい、おかしい。  契の頭の中では今の状況に対する文句しか浮かんでいなかった。  だって。裸にされて、押し倒されて、好き勝手体を触られて――そしておかしくなっている自分。このセックスは絶対的に自分が優位であるはずだったのに――今、どうだろう。 「契さま。もっと、可愛い声を出してください」 「あぁっ……! やっ、……ひだかっ……だめっ……」  体がじんじんして、目がちかちかして、体がいうことをきかない。浅はかな知識でちょっと知っているくらいだった女の子の喘ぎ声みたいなものと同じ声を、自分があげている。完全に今――契は、氷高に体を支配されていた。 「ひ、だか……! これ、ちがうっ……ひだかは、おれの、命令を、……」 「命令?」 「んぁあっ……!」  この俺が、他人に組み伏せられている――その屈辱は、契にとってそれはそれはすさまじいものだった。しかし、それで怒りを感じることもなく、こうして儚い声をあげているのは…… 「もっと触れっていう命令ですか? 契さまの反応は、私にそう命令しているようにしか思えません」  この、氷高のせい。  ふっと口角を少しだけあげて、契の首筋を吸う。そして、乳首をこりこりと指で刺激する。  いつもとは違う、氷高の顔。ちょっとだけ意地悪そうで、それでいてなんだか色っぽくて。シャツの襟元がはだけて、髪の毛が少しだけ乱れている。なんだか……かっこいいというか、なんというか。どきどきとしてしまって、この状況から逃げ出すのがもったいないなんて思ってしまう。  でも。でも、でも――執事に、こんなに恥ずかしいことされたくない。召使いとしか思っていなかった彼に、こんなに恥ずかしい姿、みせたくない。プライドが、ズタズタだ。  ごちゃごちゃに混ざり合う感情。情欲とプライドの間(はざま)で、契は喘ぐ。 「やっ……ぱり、やめっ……こんなの、おれ、……」 「本当にやめていいんですか?」 「ひぅっ……ひだか、なまいきっ……ぁんっ……!」  頭のなかに、白が弾ける。これが、抱かれる側の感覚なのだろうか。こんな風に、何も考えられなくなって、されるがままになるのが。これが、抱かれる女の人の気持ちなのだろうか。こんなに屈辱的な想いをして女の人は抱かれるのだろうか。それなら、なんで女の人は抱かれたりするんだろう。ただただ、俺はくやしい。 ――くやしい。くやしい、くやしい。  抱かせてやっているんだ。女役を甘んじて受け入れてやっているんだ。あくまで氷高は俺の下僕なんだ。  どう考えても氷高が優位にたっているというのに、この状況を打破できない。体が徐々に熱くなってゆく、体が言うことをきかない、どんどん体が自分の支配下から氷高の支配下へと移動してゆく。こんなの、この俺が――なんで、なんで。 「契さま、どうですか? 抱かれる感覚、わかってきましたか?」 「……すっごく、……むかつく! むかつく、むかつく! 抱かれるのがこんなにむかつくなら、俺は、女の人にこんなこと、しない……!」 「ほんとうに、むかついてます?」 「あたりまえっ……あっ……んやぁっ……」  これ以上、氷高に好き勝手されるのは、いやだ。そう思っているのに。契は氷高の手を振り払えない。熱の渦に引きずり込まれてゆく、その先を、知りたい――そんな心の奥に潜んでいる欲望が、契の行動を制限する。氷高に下腹部を触られても――契は、抵抗しなかった。 「んっ……んんっ……」 「気持ちいいでしょう?」 「あっ……やっ……」  契のもの先からは、とろとろとした透明な液体が溢れ出ていた。氷高がその液体を契のものを扱き全体に塗りつけるようにすれば、くちゅくちゅといやらしい音が響きだす。ちらりと氷高が契の顔を見つめれば、目が合った契ははっと目を見開いて顔を赤くする。契も、その音が「気持ちいい証拠」だということはわかっているらしい。悔しそうに眉を寄せながらも、唇からはぽろぽろと甘い声をこぼし続けていた。 「契さま。大丈夫、抱かれることは決して恥ずかしいことではありません。相手を受け入れるという行為なのです。今の貴方は、とても、綺麗です。世界一、綺麗です。俺を受け入れてくださろうとしている契さまは、ほんとうに、綺麗だ」 「ひ、だか……」 「もっと見せてください――もっと、」 「あっ、……あ――」  ゾク、ゾク。契の体が震える。氷高の熱視線に、心臓を貫かれた。穿たれた心臓の穴から熱が溢れだして、全身へ染み渡る。毛穴という毛穴から汗が吹き出して、目眩がする。ぼわ、と頭のなかが真っ白になって――ああ、もう、ヤバイ。 「力を抜いて。俺の目を見て……」 「まって、ひだか……」 「大丈夫……」 「ふ、あっ……」  氷高がどさりと契に覆いかぶさった。そして、契の後孔を指の腹でノックする。ソコに挿れられるだなんて知らなかった契だが、その行為で流石に察した。ココを使って、セックスをするのだと。  挿れるところなんかじゃない、だから怖い。契は指の侵入におびえていたが……氷高に見つめられて、徐々に体の緊張を解いてゆく。いつも、側にいてくれた氷高。彼は、自分の全てを知っている。知っているから、痛いことなんてしない。だから、大丈夫、怖くない…… 「あっ……」  つぷ、となかに指がはいってくる。思ったよりも、痛くない。むしろ…… 「どうですか? 挿れられる感覚は」 「んっ……ぅ、ん……」 「ふふ、可愛いですね」  耳元で、甘く意地悪な言葉責め。その度に下腹部がじゅわっと熱くなって、狂いそうになる。氷高の体に掛けられている圧が、心地よい。  もっと、してほしい。もっと、からだを熱くしてほしい。もっと、いろんなこと、教えてほしい。  契は氷高の背に腕を回し、しがみつく。そうすれば氷高の喉から、ごくりと唾を飲み込む音が聞こえてきた。氷高の肌から感じる熱が、次第に熱くなってゆく。触れ合った肌が、溶けてしまいそうだ。

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