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「契さまのなか、柔らかいですね。流石に俺も、ここまでは知らなかった」 「しらなくて、いい、……ぁんっ……」 「いいえ。知りたいです。この世界で私だけが知っている、契さまのからだのこと……もっと、知りたい」 「あっ……だめ、っ……そこ、……!」 「この奥が、……もっと奥が、どれほど熱いのか。知りたい」 「だめっ……だめ……! おかしく、なっちゃ――……」  しつこくなかをほぐされて、掻き回されて、ぶるぶる、と内臓が震える。未知の感覚に、契は悶えた。悶えて、恐怖を覚えた。  だめ――契がそう叫べば、氷高は驚くことに素直に指を引き抜いてしまう。ずるん、という感覚と共に、契のからだには喪失感が襲ってきた。「だめ」と口では言っていたが、なぜだかもっとして欲しいとも思っていた契は、少し残念に思ってしまう。 「物欲しそうな顔。こんな顔を見れるのは、俺だけですね」 「……ひだか、?」 「だめ、って言ったから、止めました。どうしますか、契さま。続けます?」 「そっ……そんな、ひだか、……」 「なんでしょう。俺は貴方の命令に従ったのに、そんなに残念そうな顔をして。続けて欲しいなら、命令してください」  きっと、氷高はこのまま続けてくれる。そう思っていた契は、氷高の言葉にびっくりしてしまう。続けないんだ、そう思ってぽかんとしてしまった。 ――続けないなら、それでいいじゃないか。心の皮のあたりが、そう言っている。執事に組み伏せられて、恥ずかしいことをされるなんて屈辱、ここでやめてしまえ。この生意気な執事に罰を与えろ。そう、言っている。  しかし。心の、奥。奥の方で叫んでいる。もっと、して欲しい。もっと、もっと、氷高に教えて欲しい。他の誰でもない、氷高に体の奥に触れてほしい。  今。今、言わなければ……「命令」しなければ。氷高に触れてもらうことは、一生なくなってしまう。 「――ねえ、ご主人さま?」 「……ッ」  氷高の手が、契の下っ腹を撫でる。  違う、上からじゃない。なかから、そこを、掻き回して欲しい。足りない、皮膚の上から撫でられるだけじゃ、足りない…… 「……ひだか、……」 「はい」  かく、かく、と腰が震える。つう、と堅くなったものから透明な液体を垂らし、下半身をもじもじさせて。息遣いは荒く、顔をすっかり蕩けさせて。もう、堕ちた雌のような姿になりながらも、契は渾身の力で氷高を睨みつける。そして、力の入らない手でネクタイをひっぱり、絞りだすように、そして屈服したように、「命令」した。 「命令、だ……もっと、……もっと、俺に、……さわって、……、……氷高」  すう、と氷高の瞳が細められた。氷のように冷たくて、熱い瞳。それをみて、契は確信する。 ――氷高は、忠実な犬なんかじゃない。とんだ狼だ、と。 「はい、契さま」  狼は、しゅるりとネクタイを解き、ジャケットを脱ぐ。シャツを第二ボタンまで外して、首元を晒す。  こんな氷高、見たことがない。きっちりと燕尾服を来ている氷高しか見たことがなかった契は、彼の今の姿から目が離せなかった。シャツ一枚になった氷高は、体のラインが顕著だ。細身ではあるけれど、思ったよりも男らしい、しっかりした体。はだけたシャツの襟からは、くっきりとした鎖骨が覗いていて、色っぽい。お堅いイメージしかなかった氷高の、この姿。まるで別人のような彼に、契は思わず顔を紅くしてしまった。胸がどきどきとしてしまった。 「ひだか、……」  いつもと違う雰囲気の彼に、目を奪われて。心臓の鼓動が早まって。頭のなかが真っ白になって。  ふと気づけば、氷高に再び覆い被さられていた。息のかかるほどに至近距離で見下ろされれば、もう、どうにでもしてという気分になる。氷高に支配されてしまっていい、氷高の好きにされてしまっていい。契の頭のなかからはプライドが吹っ飛んで、氷高に抱かれたいという思いが前へ前へと出てきていた。 「あっ――」  彼の熱が、体内に入ってくる。強烈な圧迫感に契の体はのけぞり、ぎゅっと手に力が入った。ちょっと、怖い、って思う。それなのに……抵抗は、できない。すっかり契は氷高に支配されてしまっていて、抵抗の意思はすっかり砕かれてしまっていた。 「あっ、……ひ、だかっ……、……んっ……」 「痛くないですか?」 「だい、じょう、ぶ……」 「もっと、奥にいきますよ」 「ぁんッ――……」  痛い。痛い、けど。  興奮、する。  氷高に侵食されていく感じ。抱かれている感じ。見下されている感じ。    今まで知らなかった、「自分が下になる」という感覚が、契の興奮をたしかに煽っていた。いつも、他人を見下ろして自分が絶対的に上だと思っていた契。こうして、屈服させられるというのは初めてで。もちろん、どうでもいい人にそんなことをされたら腹ただしいが、氷高にされると……なぜか、興奮する。 「ひだか――もう、……だめ――……」 「だめ、じゃないでしょう? こんなに、なか……震えているのに」 「へんに、なっちゃう、から……」 「俺で変になっちゃう契さま、可愛いですよ」 「はぅッ――あっ、……そこ、だめっ……あっ……」  脚をM字に大きく開脚させられるなんて、屈辱的な行為すらも、イイ。「だめ」って言ってるのに氷高にどんどん気持ちいいところを責められるのが、イイ。……氷高にいじめられるのが、いい。  被虐的な、快楽。未知の快楽。それに、契は魅入られ始めていた。 「ほら、契さま。もっと可愛い声だして」 「あぁあっ……」 「そうです――契さま。よくできました。もっとだせますね?」 「ひぅッ――ひゃ、……あぁっ、やっ」 「いいこ。」  奥のほうを、ぐりぐりっとされて、契はイキそうになった。もっとも、「イク」の感覚が、契はわからないのだが。  ただ、気持ちいいとは感じていて、氷高にされる辱めに体が悦んでいた。そして、耳元で囁かれる彼の甘く意地悪な囁きに、ゾクゾクした。恥ずかしい声を出させられることに、幸福感を覚えた。 「アッ、あ――ッ」  氷高が契を突き始める。ゆっくり腰を引いて、そして、ぐんっと奥を突き上げる。はじめはゆっくり、そして徐々にはやく。ずんっ、ずんっ、と奥を突き上げられるたびに、契の体に電流のような快楽が走り抜ける。快楽に慣れていない契はその快感に悶えたが、一度の衝撃を消化しきる前に次の一突きがくるものだから、どんどん追い込まれてゆく。ギシ、ギシ、とベッドが軋み始めて、頭の中は真っ白になって、契は顔を蕩けさせてただ嬌声をあげることしかできなくなっていた。 「あっ、あっ、あっ、あっ」 「わかりますか? 契さま。今、貴方は俺に抱かれているんですよ」 「あっ、おれ、……ッ、んっ、ひだか、に、抱かれっ……あんっ」 「そう。ほら……気持ちいいでしょう? 俺にしがみついて。俺に全部委ねて。契さま」 「あぁッ――ひだかっ……きもち、いいっ……ひだかっ……!」  氷高にぎゅっと抱きつきながら、契は揺さぶられていた。「きもちいい、きもちいい、」とうわ言のようにいいながら、感じていた。  何度も何度も、最奥を突き上げられて。ぎゅうっと下腹部が縮むような、そして切ないような、不思議な感覚に襲われた。やばい、と思った契はどうしたらいいのかもわからず、氷高の名前をひたすらに呼ぶ。ふるふると頭を振って、氷高にSOSを送れば、氷高はさらに激しくピストンをしてきた。 「契さま。これは、イクってことですよ」 「いっ、……はぁっ……あっ……」 「ほら、契さま。イカセてあげます」 「んぁッ――いくっ……ひだか、っ……いっちゃう、……」 「そう、契さまは俺に抱かれてイクんです」 「おれ、ひだかに、だかれて、イッちゃう――……」  ガンガンと突かれて、そして――契は、ビクンッビクンッと激しく震えながらイッた。イクのが初めてだった契は、そのあまりの快楽に耐え切れず、意識を飛ばしてしまう。  契のからだは、しばらく小さく痙攣していた。目を閉じて意識を遣りながらも、体が震えるたびに「ぁっ……あっ……」と可愛らしい声を出す契をみて、氷高はほくそ笑んだ。

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