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「お早うございます、契さま」  しゃ、と音がしてカーテンが開かれる。そうすれば、窓の外からは月明かりが入り込んできた。  契は重い瞼をあけて、体を起こす。……なにか、違和感。氷高の「お早うございます」は朝日とセットのはずなのになんで月明かりが窓から入ってくるんだろう。今は、夜? なんで俺はこんな時間にベッドで寝て…… 「――えっ!?」 ――そうだ、俺は、氷高と……  寝ぼけて数時間前のことを忘れていた契は、一瞬で「あの時間」を思い出した。そうだ、自分は氷高とセックスしたんだ、と。 「ちょっ、えっ、ひ、ひだか、」 「契さま、少し喉の調子が悪いみたいですね。どうぞ、ハーブティーを淹れました。喉に効きますよ」 「えっ、ありがとう……じゃなくて!」  氷高がベッドサイドにティーカップを置く。ふわりとハーブのいい香りがしたが……それどころじゃない。なぜこの男はこんなに平然としていられるんだ。乱れていた服も髪もいつものようにきっちりと戻っていて、まるで「あの行為」をしたことなど感じさせない。契は一瞬、そもそも「あの時間」は夢だったんじゃないかと思ったが、挿れられたところがじんじんと未だに熱いから、夢なわけがない。そして普段はパジャマを着て寝るのに裸で布団に入っている。 「ひ、氷高……! おまえっ……この俺にあんなことしておいてよくも」 「もうすぐ夕食の時間です。名須川シェフが今日は自信作だと仰っていましたよ」 「え、ほんと!? ……じゃなくて!」 「さあ、準備をしましょう。契さま、起きてください」  氷高が何事もなかったように服を持ってくる。そして、ベッドの側にひざまずいた。 ――この執事、まさかアレをなんとも思ってないのか!?    あまりにもいつもと変わらない氷高の様子に、契は驚いてしまう。自分は、こんなに恥ずかしくてよくわからない気分になっているというのに。  なんだかムカッとして、それでいてもやもやとして。自分だけがやきもきしていることが気に食わなくて、契はぶすっと氷高から目を逸らす。 「じ、自分で着替えるから! 氷高はあっちいってろ!」 「わかりました。ではお召し物はここに置いておきますね」  ……まあ、たしかに、エッチなことを「教えてもらった」だけだし。気にしている俺が変なのか。  部屋から出て行く氷高の背中を見つめながら、契は悶々と考えこむ。氷高の意地悪な態度もちょっと強引な抱き方も、抱かれる感覚を契に教えるためだけのものであって……別にそれ以上のものではなくて。氷高がああもさらっとしているのは年上だからそういうことに慣れている、それだけのこと。氷高はいつもどおりなのだ、アレはアレ、これ以上引きずっても意味がない。 「ふん、あの生意気執事め」  契はぶるぶると頭を振って頭を覚醒させようと試みる。しかし……自分を抱いている最中の氷高の表情が、なかなか消えてくれない。だからアレをなかったことにしようにもできなくて、そして意識すると余計に触られたところがじんじんとして……契は頭を抱えるのだった。 第一幕・Fin

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