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「く、車に乗ってデートするんじゃないの!?」 「普通の人はリムジンでデートなんてしませんよ……」 「まじで?」  まずは、家から街まで。高級住宅街にある鳴海家の屋敷から街までは、少し遠い。契はてっきり移動手段は車だと思っていたのだが、氷高によってそれは却下されてしまった。そして乗ったのが、電車だ。学校のフィールドワークとかでしか乗ったことのない、電車。乗り心地も最悪、変な臭いがする……ということでプライベートで乗ることなど絶対にないだろうと思っていた電車をデートに使うということに、契は驚いていた。 「……」  電車は、先の理由により嫌いだった。――が、今の契は、それほど不快だとは思っていなかった。  氷高と、二人。私服を着たいつもよりもかっこいい気がする氷高が隣に座って、話しかけてくる。普段、こんな距離で氷高と話すことなんてほとんどないし、それにこうしたがやがやとしたところで氷高と二人でいることなんてないし。なんだかそわそわとしてしまって、それでいてどきどきとしてしまって。この、甘酸っぱいような感覚が、不思議と心地よい。 「……氷高って、デートしたことあるの?」 「ありますよ」 「……女の子と?」 「そうですね。昔は彼女もいたので」 「えっ聞いてない」 「言ってませんから」 「……そう、なんだ」  でも。電車に揺られ、なんとなくした雑談。氷高から聞いた言葉に、ちょっとだけ嫌な気分になった。  氷高にも彼女がいたのか。好きな人がいたのか。自分以外の人に、想いを寄せていたのか――……  感じていた、心地良い感覚。それが、一気にもやもやとした霧に変わる。なぜ、そんなことを考えてしまうのかはわからなかったけれど――すごく、不愉快だった。 「……ずっと俺のことだけ考えてくれているんだと思った」 「――……、」  ぶす、と呟いた契を、氷高が驚いたように見つめる。  たたん、たたん、と響く電車の音が心臓を叩いていた。

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