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***  「お手洗いまで案内いたします」、そう言って氷高は莉一をトイレまで連れて行くことになった。契はすでに自室へ戻っており、二人きりである。 「執事さんは、ずっとここで働いているんですか?」 「今年で5年目になります。契さまのお世話をしていたのは、もっとずっと前からですが」  莉一は契と一緒にいた氷高に興味があるようである。執事にしては若く、若いにしてはしっかりとしている氷高。少し変わった存在に映ったのかもしれない。莉一は氷高の話を聞くたびに驚いたような声をあげていた。 「じゃあ、幼い頃から契くんのことを見てきたんですか?」 「そうですね。物心がついたときから、契さまと一緒にいました。歳は少し離れていますが、幼なじみのようなものです」 「へえ……幼なじみ……」  トイレの前について、二人は立ち止まる。世間話なら、ここでお別れしてもかまわない、それなのに二人はその場を動こうとしない。 「ごめんなさい、執事さん。契くん、今日で執事さん離れしちゃうかも。大切な幼なじみを奪うかもしれないから、先に謝っておきますね」 「……どういうことでしょう」  莉一の瞳が、挑戦的に細められた。氷高はぴくりと片眉を動かして、莉一をにらみつける。  明確な、そして静かな敵意が、お互いの瞳に燃えた。 「僕、契くんに一目惚れしちゃった。本気で堕としにいきますね」

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