24 / 91
4
***
「お手洗いまで案内いたします」、そう言って氷高は莉一をトイレまで連れて行くことになった。契はすでに自室へ戻っており、二人きりである。
「執事さんは、ずっとここで働いているんですか?」
「今年で5年目になります。契さまのお世話をしていたのは、もっとずっと前からですが」
莉一は契と一緒にいた氷高に興味があるようである。執事にしては若く、若いにしてはしっかりとしている氷高。少し変わった存在に映ったのかもしれない。莉一は氷高の話を聞くたびに驚いたような声をあげていた。
「じゃあ、幼い頃から契くんのことを見てきたんですか?」
「そうですね。物心がついたときから、契さまと一緒にいました。歳は少し離れていますが、幼なじみのようなものです」
「へえ……幼なじみ……」
トイレの前について、二人は立ち止まる。世間話なら、ここでお別れしてもかまわない、それなのに二人はその場を動こうとしない。
「ごめんなさい、執事さん。契くん、今日で執事さん離れしちゃうかも。大切な幼なじみを奪うかもしれないから、先に謝っておきますね」
「……どういうことでしょう」
莉一の瞳が、挑戦的に細められた。氷高はぴくりと片眉を動かして、莉一をにらみつける。
明確な、そして静かな敵意が、お互いの瞳に燃えた。
「僕、契くんに一目惚れしちゃった。本気で堕としにいきますね」
ともだちにシェアしよう!