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「んっ……、ぁ……、」
何度も何度も角度を変えて、二人はずっとキスをしていた。時を、忘れるくらいに。
この二週間が、永遠のように長かった。ただ、一人の人間がいなくなっただけだというのに、空の色が青から赤に変わってしまったように、世界が変わって見えた。……そのくらいに、お互いの存在はかけがえのないものだった。
そんな、世界一大切な人と。こうしてまた触れ合うことができる。それが嬉しくて、何よりも尊くて、キスのひとつですらも涙があふれるくらいに、嬉しい。……氷高は実際に泣いていたのだが。
「契さま……」
「ん……?」
「電気、消しますか……?」
「へぇ、何……今更そんな気遣いして……」
たくさんの口づけを重ねて体が熱くなってくると、氷高が契のシャツに手をかけた。しかし、今までのようにすぐに脱がすことはなく、手を止める。
氷高は気遣いのできる男だが、セックスのときにそうだったかと言えば……たぶん違う。契のことを慈しむように、傷つけぬように抱いてはくるが……少々サディズムが混じっていて、精神的な部分まで優しくしてくるかといえばそうではない。むしろ契の羞恥心を煽るような責め方をしてくる。だから、電気を消すかなどと聞いてきたことに、契は疑問を覚えた。
尋ねてみれば、氷高は契から目を逸らし、顔を赤らめる。そして、火照った体を冷ますように自分のネクタイをほどいて、ぼそぼそと話し出す。
「……加減が、効かないかもしれません。契さまが、そんな私を見て怖いって思ったら申し訳ないと思いまして……」
「……ふんっ」
「あっ! リモコンが!」
理由を聞くなり、契はベッドサイドにあった電気のリモコンを遠く離れたソファに向かって放り投げた。手の届かないところへ行ってしまったリモコンを目で追いながら唖然としている氷高を見て、契はぱしんと氷高の頬を軽くたたく。
「ひ、氷高! おまえ、二週間も俺と離れていたのに、顔見えなくても平気なのか!」
「えっ……」
「お、俺は……顔、見えたほうがいいんだけど……おまえは、違うの……かよ!」
「せ、契さま」
「せめて、今日くらいは……電気、消すなよ。……わっ、わかったか!」
「~~ッ」
――氷高の言いたいことは、よく理解できた。
久々のセックスだから、自分が自分でなくなってしまうかもしれない。そんな姿を、相手に見せたくない――。契も、その気持ちを持っていた。だから理解できた。氷高のことを想って氷高のベッドで自慰をしてしまうくらいには、契は氷高に焦がれていたのだ。だから、こうして本人に抱かれては、どうなってしまうかわからない。ぐちゃぐちゃになって、ひどく恥ずかしい思いをしてしまうかもしれない。
けれど――。契の中でその羞恥心よりも勝ったのは、氷高の顔を見たいという気持ちだった。
ずっと、寂しかったから。だから今自分は氷高に触れているのだと、氷高は自分の腕の中にいるのだと―ーそう実感したかった。
そんな、契のいじらしい想いを吐露されて、氷高が冷静でいられるわけがなかった。顔を今まで以上に赤くして、しどろもどろになりながら、顔を近づける。
「申し訳、ありませんでした……俺も、契さまのお顔が見たいです……貴方に、俺を見ていて欲しいです」
「……ん、……よし」
「契さま……」
鼻先を触れ合わせて、ちょん、ちょん、と唇でつつき合わせるようにして、短いキスを繰り返す。合間合間に「契さま」「可愛いです」「好きです」と甘ったるく囁けば、契は困ったように笑いながら愛おし気に氷高の頭を撫でてきた。
時を溶かすような、甘ったるいキスをしながら、氷高は契の服を脱がしてゆく。そして、契も氷高の服に手をかけて、もたもたとした手つきで脱がしていった。
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