60 / 91
6(2)
「あっ……あっ、」
痛かった。咬まれたところから、やけどをしてしまいそうだった。しかし、契は切なげにまつ毛を震わせて、悦びの声をあげる。
氷高に所有の証をつけられることが、たまらなく嬉しかったのだ。以前、一回だけキスマークを付けられたことがあったが……それ以降、そういったことをされたことがない。氷高は、なかなか契を求める気持ちを表に出せないので、できないのだ。だから……その独占欲むき出しの行為をしてくれることが嬉しい。氷高が激しく求めてくれているとその痛みが証明しているようで――狂おしい。
「はあ、……痕、が、……」
「もっと、……氷高さま……もっとつけて……」
「契、……、ん、」
「っ……あ、……! あ、……あ!」
もっと、もっと……今日だけは、何もかもが赦されるから。
契はビクッ! ビクッ! と体を震わせながら、氷高のマーキングを受け入れた。熱と痛みと快楽で、理性が吹っ飛びそうだった。
「……契、」
「あ、……」
契の首から口を離し、氷高は自らがつけた痕を見つめる。くっきりと残った歯型は少し鬱血していて痛々しい。
氷高はその痕に指を這わせた。それを見つめる氷高の目にはゆらりゆらりと炎が宿っていて、毒々しいほどの劣情に契は体の奥が震えるのを感じた。
「は、ぅッ……あ、……あ 」
再び、氷高が契の首筋を咬む。そして、同時に秘部に指をいれてきた。ゾクンッ、と電流が全身に走って、契は仰け反り声をあげてしまう。
「あっ、んっ、ぁ、あ」
痛みと快楽と、そして業火のような独占欲。溢れかえるほどの熱を与えられ、契は頭が真っ白になった。狂いそうになった。しかし、氷高の抱えてきたものを受け止めたいという一心で、必死に意識を繋ぎ止める。氷高の背に爪をたてて、肩口に噛み付いて、ぎゅっと氷高にしがみつく。を真っ赤に紅潮させ、瞳を潤ませて、ギリギリのところで耐えていた。
「~~……ッ!」
氷高の指が、契のいいところを捉える。ぎゅうっと強くなった締め付けに、氷高は契の弱点に気付く。指を折り、集中的にそこを責めあげだした。
「あっ、ひ、ぅっあ、」
契の声がひっくり返って、儚く甘ったるいものへ変化する。きゅ、きゅ、と何度も氷高の指を締め付けるソコは、すでに達してしまいそうだ。しかし氷高は遠慮することなく、契の全身を揺らすような勢いで手を動かしてくる。
思わず契が腰を引くと、ぐ、と契の頭を鷲掴みするようにして、氷高は契をホールドした。放さない、と言わんばかりの氷高の行動に、思わず契はきゅんとしてしまう。
「好き、」
「……ッ、」
責め立てられるなかで、契は氷高の絞り出すような声を聞き取った。頭の中がぐちゃぐちゃで、その言葉の意味を理解することすらも難しかったが、声の色でその言葉に込められた感情を感じ取る。
懇願するような、祈るような、そんな愛の言葉は。どんな状況でも変わらない、氷高から契への想いだ。こんなにも切なげな「好き」を、契は他に知らない。ぎゅっと胸が締め付けられるような愛おしさを覚えた。
「あっ……」
昇りつめ、辿り着くその寸前で、氷高が指を引き抜いてきた。ひゅ、と熱が引いていく寂しさに、契は熱を追いかけるように声をあげる。しかし、すぐに熱はやってくる。
「あ、う……」
「契、……」
「あ、あ、あ……」
氷高が、自身をぐずぐずになった契の秘部に押し当ててきたのだ。じり、じり、と少しずつ熱を契のなかへいれてゆく。
もどかしい。
今すぐにでも貫いてくれればいいのに、氷高はなかなか錠を断とうとしない。契を掻き抱く氷高の口から洩れるのは、何度も繰り返される契の名前。大好きなのに求めることを赦されなくて、でも今だけは赦されて……そんな氷高のぐちゃぐちゃになった契への恋心。契の名を呼ぶその声に、痛いほどの氷高の感情が滲んでいた。
「はあ、……ひだか、……さま……きて、……」
「……、契、」
今は、氷高の方が立場が上だと言ったじゃないか。
どんなに契が氷高を主人という立場に押しやっても、氷高の魂に根付いてしまった執事の性は拭えないらしい。そんな氷高という人間を契は知っていたから、こうして苦しむ氷高を愛おしいと思った。
今まで、おまえは苦しんできたんだよな。ずっと、自分を殺してきたんだな。ああ、馬鹿なやつ。せめて、今だけは何もかもを忘れてしまえばいいよ。月にあてられたように、狂ってしまえ。
「……ッ!?」
理性と本能の狭間でもがき、なかなか奥まで押し込んでこようとしない氷高に焦れて、契は自ら腰を氷高に押し付けた。びく、と震えて驚いた氷高は、唖然と契を見つめる。
ともだちにシェアしよう!