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「ぁ、……んっ、う、ん、」
ケダモノ、と氷高が自分で言ったその言葉は、全くその通りであった。主人と執事という立場から解放された氷高がここまですごいのかと、契は目を回してしまっていた。
キスだけで、すでに契は限界に追い込まれていたのだ。がっちりと頭を掴まれ、そして深いキスをされる。じっくりと味わうように舌をねぶられ、唇を食べるように吸われ、それはまるで寵愛するように。
契は必死についていこうとしたが、全くそれはかなわない。氷高に教え込まれた今までのキスとは、違いすぎた。
「あっ……ぅ、……」
解放された瞬間、契の体からがくんと力が抜ける。はー、はー、と吐息の漏れる唇から、たら、と唾液が伝っていく。氷高は遠慮なしにそれを舐めとると、また、契の唇に噛み付いた。
(う、うそ……もう、無理だって、ひだか……むり、……でも、きもちいい……)
いつもと違うキスに、すでに契の体はくたくただ。しかし、契は逃げようとはしなかった。氷高がこうなれるのは、今日だけだ。氷高の押し込んでいた想いに応えてあげられるのが今日だけだと思うと、逃げることなどできなかった。
「う、……」
唇がふやけそうになるまでキスを堪能されて、契は熱で浮かされぐったりとしてしまう。やはり、いつもよりも明らかに激しい。契のことを食らわんとする勢いでキスをしてきた氷高に、契はどきりとする。彼がいつもこんなにも激しい劣情を抑え込んでいたのかと思うと、頭を撫でてあげたくなった。
「契……」
「ん、……」
契の名を呼ぶ氷高の声色に、じっとりと熱が絡んでいる。はあはあと荒げる吐息は、野生的。ギラギラとした瞳はケモノのよう。
見下ろされ、契は心臓がバクバクと音をたてるのを感じた。氷高の熱視線が、胸を刺す。
もっと。もっと……激しく求めて欲しい。燃え滾るような熱いものを、注ぎ込んで欲しい。
「あっ、……ぅ、んっ……!」
しっとりと熱くなる契の肌に、氷高が吸い付いた。首筋にちくりと痛みが走って、契はビクッと体を震わせる。
氷高が――首に、痕を残そうとしている。
「……痛く、ない?」
「はを、……」
「「は」?」
「歯を、たてて……ください……痛くしてもいいから、……氷高さまの痕、……思い切り、つけて……」
はあ、と氷高の吐息に熱が帯びる。
氷高は苦しむように眉間にしわを寄せ、そしてそのままもう一度契の首に唇をつけた。そして……ぎ、と歯をたてる。ぎち、と強めに咬めば、咬んだ部分が熱くなってゆく。
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