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第八幕
たっぷりの生クリーム、艶やかに輝くイチゴ、熟したバナナ。大行列ができる話題のクレープ屋さん。その前に、サングラスにマスク、深く被った帽子……という怪しい出で立ちの男と、燕尾服を着た男が二人。
クレープを持ってご満悦の表情を浮かべる男に、燕尾服の男が声をかける。
「少しだけ……少しだけ、サングラスとマスクをとっていただけますか」
「いや、そんなことしたらバレるから……」
「一瞬です! 一瞬!」
「……一瞬だぞ」
男がサングラスとマスクを外すと、その瞬間に燕尾服の男がパシャリと素早く写真を撮った。
「ああ……今日も麗しいです。契さま! クレープを頬張る姿……なんて可愛らしいのでしょう!」
「バカ、声デカい!」
「おっと……」
燕尾服の男――氷高が声をあげた瞬間、きゃーっと黄色い声が響く。クレープ屋に行列を作っていた女性たちだった。
「契さま! 契さまだ! 超イケメン~!」
「あっ、執事さんもいる! 私執事さん派なんだよね……!」
鳴宮 契――28歳。職業、俳優。今をトキメク人気俳優。数々の人気ドラマに出演し、最近主演となった映画は世界的な賞も獲った。今や、日本で彼の名前を知らない者はいないだろう。
「氷高のせいでバレただろ、馬鹿野郎!」
「すみません……愛らしい契さまを見ていたら情熱を抑えきれず……」
「いいから逃げるぞ! 車はどこだ!」
「あちらです! 行きましょう、契さま!」
ファンに囲まれそうになった二人は、慌てて走り出す。もう少し数が少なければファンサービスをしてもよかったのだが、如何せん数が多すぎる。騒ぎになってしまうので、二人は逃げることにしたのだった。
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