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「今日の神藤君、なんだかぼんやりしていたね。どうかした?」
特別授業の終わり、前の方の席に座っていた沙良に淺羽が話しかけてきた。怒っているという風ではなく、心配しているように見える。居眠りをしていたというわけでもないが、申し訳ないと思った沙良は謝ろうとした――が、横から、結月が割り込んできた。
「沙良ちゃん、恋しちゃったみたいで!」
「恋じゃない!」
からかうようにして言う結月を、沙良は軽く小突く。
恋、なんてありえないのだ。今まで沙良は彼女がいたこともあったし、片思いも何度かしていたし、恋をしたことはあるが、それらはこんなにむかむかとしたものではない。もっと甘酸っぱくて、幸せで、そんなものだった気がする。それに……波折は男だ。男が好きというわけでもない自分がなぜ波折を好きになるというのか。
「いいね~、恋か。青臭くて好きだよ! 俺はもうおっさんだからさ」
「いやいや淺羽先生はまだ若くないですか?」
「神藤君みたいな青春臭いことできるほどはもう、若くないかな」
「せ、青春……」
淺羽はにやにやと笑って沙良をみつめる。
だから恋じゃないって。あんなやつ嫌いだって。
むしゃくしゃとして、でもぐるぐるとした気持ちを言葉にできなくて沙良が黙っていれば、淺羽はぽん、と沙良の肩を叩いた。
「頑張れよ少年! 俺は応援してるからな!」
「……」
演技がかった口調でそんなことを言われると、もう何も言い返す気力がなくなってしまって、沙良は苦笑いを返すことしかできなかった。
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