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*** 「前夜祭の出し物だけど、美術部と組んで……」  放課後の生徒会の集まり。学園祭の話し合いも本格的に始まってきた。波折がメンバーにきびきびと指示を出している。 「……」  こうしてみていると、波折は本当に「理想の生徒会長」だと思う。人の前に立つ姿が、ほんとうに似合う人。でも波折は自分で「みんなの理想の生徒会長像」として振舞っている、と言っていた。そして……波折が演じているのは「理想の生徒会長」だけではないと思う。「俺は友達をつくってはいけない」とわけのわからないことを言っていた。きっと、近づいていきた人にわざと酷い態度をとって嫌われるように仕向けているのだ。波折は……なぜか、自分を隠している。色んな自分をみんなの前で演じているのは、なぜだろう。 「……さら。沙良」 「え、あ、はい」 「聞いていた? 沙良は俺の補佐。俺について俺のサポートをしてくれ」 「は、はい! わかりました」  沙良はぼんやりと波折のことを考えていたものだから、急に呼ばれてびくりと体を震わせた。ぼーっとしてるな、と波折が睨んでくる。  生徒会活動が始まってから約1時間、やはり波折は完全に自分との壁を取り払ってくれたわけではない、それを沙良は感じ取っていた。「友達」になるのにはまだ抵抗があるようである。きっとその理由は、波折がいくつもの自分を演じていた理由につながるだろう。あまり詮索するのもよくない。でもそれのせいで人と関わりを断って寂しそうにしている波折をみたくない。どうしたらいいんだろう。 (とりあえず波折先輩と仲良くなりたいな……)  ともかく波折との仲を深めれば、少しは彼の救いになれるのではないか。沙良はそう考える。なにか理由があって友達をつくりたがらない彼と、少しずつ、少しずつ会話を重ねていってなんとかして壁を取り払う。  がんばろう。急ぐことでもない。ゆっくりでいいから、波折と仲良くなりたい。笑った顔をもっとみてみたい。  沙良は心のなかで決心すると、軽く頭を振って配られた資料に目を通した。

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