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「な、なお、」 「ひゃんっ……!」    何もしないわけにはいかないと恐る恐るバイブの持ち手に沙良が触れると、びくんっ、と波折の身体が跳ねた。びっくりして沙良がぱっと手を離せば、波折がぐりぐりと頭を押し付けてくる。 「も、もういっかい……いまの、とこ」 「い、いまのとこ?」 「いいとこ、あたったから……もういっかい、して……」 (ひ、ひぃー!)  もう一回してくださいなんて、なんて淫乱なんでしょう! 沙良は顔を真っ赤にして固まってしまう。頭で色々と処理しきれていない。本当にこれは波折先輩か? このとんでもない淫乱が? いくらチョコレートを食べているからって? だってだって、あの爽やか王子様兼さみしがりやさんの美青年のイメージとはかけ離れすぎている。 「さら……さら、おねがい……」 「も、もう自分でやったらいいんじゃないでしょうかね!?」 「やだ……さらに、してほしい」 「なんで!?」 「人にいじわるされたほうが……きもちいい」 「な、な」  ぶぶぶぶぶ。モーター音はなおも続く。こうして沙良が動けないでいる間にも、バイブの振動は続いている。波折からすれば焦らされているような気分なのだろうか。すりすりと頬を擦りつけてくる波折からは、気持ちよさそうに蕩けた声がこぼれてくる。 「んん……さら、はやく……んっ、……」 「あー、もう、やればいいんでしょ、やれば! どうにでもなれ!」 「ひゃああああっ……!」  このままだと理性が壊れてしまう。やけになって沙良はバイブを掴んで、ぐっと思い切りなかで傾けてやった。その瞬間、波折は弓反りになってびくんびくんと身体を震わせて、甲高い嬌声をあげる。 「あぁああっ……いくっ、いっちゃう……! あぁっ……!」 「……!」  波折が快楽に悶え、身体をよじらせた拍子に、波折の顔が再びあらわになる。その、とろとろになった顔をみて……沙良の下半身がずくんと熱を持った。衝動のままに――ずぶっ、とバイブを一度奥に突っ込んでしまう。 「はぁんっ……!」 「……」 「あんっ、あんっ、あんっ……」  ずぶ、ずぶ、ずぶ。気がつけばバイブを抜きさししていた。奥に入り込むたびにびくんと跳ねる波折の身体がいやらしい。ふつふつと、嗜虐心がわきあがる。もっと波折のいやらしい顔を、みたい。 「あぁっ、んっ、はぁっ……さらっ……おもちゃ、やだ……」 「え……?」 「さらの、ほしい……さらの……」  息があがる。興奮のあまり、くらくらしてくる。    沙良は身体をおこし、波折の脚をつかむ。ぐ、と脚を開いてやれば、バイブがずっぷりとささっているところがはっきりみえた。潤滑剤でてらてらとぬめったそこに、うねうねと動く異物。どきどきしながらそれを引き抜けば……ぬぽっと音がして液体が糸をひいた。 「あぁん……」 「……っ」  ぽっかりとあいた穴が、ひくひくと物欲しげにうごしている。あの動画を思い出す。男のここがあんなにいやらしいわけがないと思いながらみていたあの動画と同じ光景が、今目の前に。はーはーと息を吐く波折が、とろんとした目でこちらをみている。はやくいれて、懇願するようにその瞳を潤ませながら。 「波折先輩……」 ――本当は、友達になりたいよ。 「波折、先輩……」  く、と唇を噛んで、沙良は波折を抱きしめた。 「……指で、気持ちよくしますからね、波折先輩」 「なんで……さら、……さらの、ほしい……」 「……それは……もしも、俺達が恋人になれたら……そのときに」  だめだよ。俺達はまだ、友達にもなれていない。 「波折先輩……はやく、この部屋をでよう。がんばって」 「さら……あっ、あぁ……」  指を、いれる。本当はすでに勃ってしまっているものを、挿れたい。でもそれだけはだめだと、理性が打ち勝った。波折のことを、大切にしたかった。二人で屋上でお昼を食べて、時々本の話をして、でも生徒会の活動が終わったら別々に帰って。そんな、少しずつ歩み寄る関係を、ここで壊したくなかった。 「あっ、あぁ……さら……あんっ……」 「波折先輩……波折先輩」  肉壁がぎゅうぎゅうに指を締め付けてくる。波折がぎゅっとしがみついてきて、甘い声をあげ続ける。たまらなくいやらしくて、愛おしくて。今すぐにでも欲望で犯したくて、我慢が苦しい。それでも、絶対に一線を越えたくない。  こんなことを強いてきた魔女は、いったい何が狙いなのだろう。男子高生同士がセックスをするところをみたかったのだろうか。わけがわからない。楽しませてほしい、だなんてふざけるな。 ――俺の恋心をもてあそぶなよ……!  悔しくて、悲しくて、涙が溢れてきた。 「うっ……く、ぅっ……ん……」 「……波折先輩」  ぎゅっ、となかが締まる。そして、びくんっ、と波折の身体が跳ね上がって、背中に爪をたてられた。ああ、イッたんだな、そう思って沙良はよしよしと波折の頭を撫でてやる。 「さ、ら……」 「……大丈夫? 波折先輩……」 「うん……あっ……んんっ……」  泣き顔を隠すようにして、沙良は波折の首元に顔をうずめる。そして、また指を動かす。すがりついてくる波折が可愛い。本当に、可愛い。でもこの行為は魔女に強いられたものであって。これ以上自分は波折に触れてはいけない。自分がしていいのは、彼をイかせる、という行為だけ。こんな状況のなか、彼とひとつになりたくない。 「はぅっ……、あっ……!」  可愛い。可愛い。辛い。しつこく前立腺のあたりをこすってやると、波折が短い間隔で何度もイッた。自分の首元に顔をうずめながらふーふーと息をして喘いでいる波折が本当に可愛くて、我慢の限界が訪れてしまいそう。それでも沙良はぎゅっと唇を噛んで、耐え続ける。 「あっ……あぁッ……!」  何度目かの絶頂は、一際大きかった。波折は身体を縮こませて強く沙良を抱き、髪をくしゃりと掴んできた。 「波折……先輩……?」  波折はしばらくぎゅうっとしがみついてきていたが、やがてぱたりと力を抜く。沙良が体を起こして彼の顔を覗いてみれば、ぽーっとした顔で見上げてきた。 「……先輩……身体、落ち着いた?」 「……さら……」  チョコレートの効果がきれてきたのだろうか。沙良はほっと息を吐く。頬を優しく撫でてやれば、波折は安心したように目を閉じた。 「沙良……ごめん……沙良……」 「なんで先輩が謝るんですか……悪いのは全部、魔女だから……」 「さら……」  波折はぽろ、と涙を一筋流し、瞼をあける。そして、潤んだ瞳で沙良を見上げて、また目を閉じた。  疲れてしまったのだろうか、波折はすうと寝息をたてはじめた。愛おしさにぎゅうっと胸が締め付けられて、沙良は波折を起こさないように優しく抱きしめる。 「――お疲れ、神藤君」 「……!」  そのとき、ベッドの傍らにすうっとあの影が現れた。沙良ははっと顔をあげてソレを睨みつけ、唇を噛みしめる。自分たちを散々侮辱した魔女が許せなかったが、この影に攻撃したところで本人にはおそらく届かないだろうし、なにより裁判官でない沙良が学外で魔術を使ったりしてはいけない。何もできない悔しさに震えながら、沙良は黙りこむ。 「君はなかなかに我慢強い子だね。好きな子にあんなに迫られて理性を保つなんて。既成事実を作っちゃって波折のこと無理やり恋人にしちゃえばよかったのに」 「……」 「ありがとう、なかなか楽しめたよ。約束どおり、解放してあげる。あと五分くらいしたらこの部屋は消えて君たちは元の世界に戻るから、準備を整えといてね」  影は飄々とした口調で話し、そしてまた消えてしまった。  本当に魔女の狙いがわからない。魔女が憎くて仕方なかったが、結局何もできない自分が一番憎かった。 「……先輩」  自分が裁判官になれたら、大切な人を守るために魔女を裁けるのに。様々な想いがせめぎあい、沙良はもう一度、波折を抱きしめた。

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